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頸椎捻挫・腰椎捻挫と後遺障害認定

カテゴリ: その他

1 はじめに
 事故の多くを占めるのが追突事故であり、このような事故の場合、頸椎捻挫・腰椎捻挫と診断されて治療がされることが多いです。
 治療により、痛みがなくなり治った状態になればよいのですが、治療を続けたにもかかわらず、痛みが残ってしまった場合、このような状態が後遺障害として認定されるかどうかが問題となります。

 

2 後遺障害として認定されるための条件
 上記のような「痛みが残ってしまったこと」のみを理由として後遺障害を申請する場合、認定の可能性のある後遺障害等級は、14級と12級の2つです。
 12級の方が、より重い後遺傷害とされています。
 骨折部の変形など、痛みの原因となる画像所見がある場合には、12級が認定される可能性がありますが、これ以外は、14級と認定されるにとどまります。
 また、後遺障害が認定されない場合に示される理由の多くは「今後(痛みについて)改善の見込みがないとはいえない」というものです。
 つまり、14級が認定されるためには、事故の状況や治療状況に照らし「将来においても回復する見込みがないこと」が認めらられることが必要、ということです。
 このように、14級の認定は、、何か明確な基準があるものではなく、様々な事実を考慮して認定する、というものです。

 

3 後遺障害認定について弁護士に依頼するメリット
 画像所見の存在が必要となる12級にくらべ、14級の認定要件は不確かであり、私どものように、多くの後遺障害の申請に携わっている者ですら、認定されると思った事故が認定されなかったり、その逆もあり得るというのが実情です。
 それでも、多数の事案に接することで、認定の可能性が高いかどうか、可能性を高めるためにどのような事実を認定機関に伝えたらよいのか、ということがわかるようになります。
 経験に基づく判断といってもよいかもしれません。
 一般の方は、このような経験はございませんので、少なくとも、専門家としての経験を生かすという意味で、弁護士に依頼するメリットがあるのではないかと思います。
  
4 おわりに
  後遺障害申請については、いろいろ難しい問題がありますので、弁護士にご相談されることをお勧めします。

物損事故で、相手方が任意保険に加入していない場合の対処法

カテゴリ: その他

1 はじめに
 このごろ、事故により車両が損傷したが、相手方が任意保険に加入していない事例についての相談を受けることがあります。
 相手方が任意保険に加入していない場合、相手方から賠償金を支払ってもらえるかという問題のほかに、相手方との交渉が難しくなる、という問題もあります。
  
2 相手方が任意保険に加入している場合との比較
 ⑴ 相手方が任意保険に加入している場合
 任意保険により、合意した金額あるいは裁判などで決められた賠償金を確実に支払ってもらえることになります。
 また、示談交渉は、相手方本人ではなく、事故の損害について一定の知識のある保険会社社員が対応することになるので、ある程度信頼して交渉を進めることができます。
 

 ⑵ 相手方が任意保険に加入していない場合
 必要な賠償額を支払ってもらえるかどうかという問題があります。
 車両の修理費は、軽微なものでも10万円くらい、一般的には数十万円以上を要することが多いです。
 また、車両以外に、周辺の家屋や信号機などに衝突することもあり、このような倍には、さらに賠償金額が増えることになります。
 いったん事故となった場合の物損の金額は、一般の方がすぐに支払える金額に収まるとは限りません。
 また、相手方本人が弁護士に交渉を依頼した場合を除き、相手方本人と直接交渉することとなりますが、互いに必要な知識を持ち合わせていない場合は、交渉が難航したり、誤った合意をしてしまう可能性が高くなります。

 

3 自動車賠償責任保険と異なり、加入義務がないことの影響
 けがに対する補償である自動車賠償責任保険は、法的に加入が義務づけられていますが、物損については、保険への加入が義務づけられていません。
 このため、物損の場合は、けがの場合と比べ、相手方が無保険である可能性が高くなります。
 また、けがの場合は、健康保険や労災保険など、公的保険により被害者自身の損害を軽減することができますが、物損については、公的な保険はありません。

 

4 車両保険への加入
 物損について相手方が無保険であることへの対応は、現時点では、車両保険に加入すること以外にありません。
 車両保険について、他の自動車保険の特約にに比べると、保険料が割高であるためか、加入率は高くないようです。
 しかし、すでにお伝えしたとおり、相手方が物損について無保険の場合、相手方から賠償金の支払を受けることは、事実上困難であることを考えると、備えとして必要な保険ではないかと思います。
 車両保険に加入することで、相手方が無資力であることのリスクや、相手方との交渉から解放されることになります。
 相手方からの回収は、車両保険からの保険金を支払った保険会社にて行われるためです。
 また、相手方から賠償される範囲について過失割合や、事故時の車両価格により限られた範囲になることがありますが、車両保険によりこれを回避することができます(過失割合による減額なしに、保険金の上限までの範囲で、支払を受けることができる。)。
 また、特約によっては、新車購入に必要な程度の保険金が得られるものもあります。
 これに対し、相手方からの支払は、事故当時の車両価格にとどまります。
  
5 おわりに
 もともと、保険は、いざというときの備えとして加入するものですが、車両保険についても、他の特約と同じようにご検討いただけたらと思います。

相手方が医療費を支払ってくれない場合の対処法

カテゴリ: その他

1 はじめに
 交通事故に遭った場合、被害者は加害者に対し、賠償金を請求することでき、その中に医療費も含まれます。
 しかし、加害者が無資力の場合、被害者自身が医療費の工面をせざるを得ません。
 そのような場合に、考えられる対策や注意事項についてお伝えします。
  
2 御自身が契約している保険より支払ってもらう
 ⑴ 人身傷害保険・人身傷害特約の使用
 御自身が契約されている自動車保険の中に「人身傷害保険」または「人身傷害特約」との項目や特約があれば、この保険から、医療費を支払ってもらうことができます。
 自動車保険に加入されている場合、まずはご加入の保険会社に確認してください。
 なお、人身傷害保険等を使う場合でも、医療費全部を人身傷害保険から支払うのではなく、健康保険を使用した際の3割の窓口負担分についてのみ、人身傷害保険から支払うとする保険会社もあるようです。
 支払われる保険金の範囲について、保険会社に確認してみてください。
 

 ⑵ 日額の補償を受け取る
 医療費と併せて、あるいは医療費そのものは保障対象ではないが、通院・入院の日数に応じて保険金を支払ってくれる保険契約があります。(例:通院1日当たり5000円を支払う契約で、5日通院したのであれば、合計2万5000円の保険金を支払うとするものなど。)
 医療費そのものの支払はなくとも、日額の支払を受けることで、医療費支払による負担を軽減できます。

 

3 健康保険・労災保険にて受診する
 ⑴ 健康保険と労災保険の区別
 どちらも、医療費の支払に対応した保険ですが、役割分担があります。
 お勤めされている方が、勤務中または通勤の途中(帰路も含む)にて事故に遭った場合は、労災保険を使用し、それ以外は健康保険を使用することが法律で定められています。
 労災保険の対象となる事故であるにもかかわらず、健康保険を使用した場合、健康保険から、健康保険の負担分7割について、被害者から健保への支払を求められることがありますので、注意してください。

 

 ⑵ 健康保険を使用する場合
 この場合、交通事故によりけがをしたことの届け出(第三者行為による傷病届)とこれに付随した書類(事故の状況図など)が必要となります。
 必要な書類の詳細については、健康保険の担当者にご確認ください。

 

 ⑶ 労災保険を使用する場合
 所定の申請用紙(労働基準監督署の窓口のほか、厚生労働省のホームページより取得することも可能です。)に記載した上、労災保険の指定病院窓口に提出すれば、健康保険と異なり、被害者からの支払なし(全額、労災保険が負担)にて、受診することができます。
 申請用紙には、お勤め先の会社に証明してもらう欄がありますので、お勤め先の協力を得る必要があります。
 もし、協力が得られない場合は、労働基準監督署にご相談ください。
 会社の証明なくして、労災保険からの給付を受けられる場合があります。
  
4 自動車賠償責任保険を使用する
 事故証明により、相手方の自動車賠償責任保険の有無、保険会社名及び契約番号などを確認することができます。
 記載の保険会社に連絡すれば、手続について教えてもらうことができます。
 また、自動車事故で、相手方が自動車賠償責任保険に加入していなかった場合でも、自動車賠償責任保険から支払を受けることができる制度(政府保障事業)があります。
 この場合、自動車保険を取り扱っている保険会社のいずれかの窓口にて申請すれば、手続をしてもらえます。
 ただし、自動車賠償責任保険の場合、支払限度額について低く設定されている上に、いったん、被害者にて医療費等を支払った後でないと請求できない(領収書などを提出しないと支払ってもらえない)という難点があります。

 

5 おわりに
 事故の加害者が、任意保険に加入してないケースは、残念ながら少なくありません。
 また、自転車との衝突事故などのように、相手方が自動車保険に加入していない交通事故も増えています。
 相手方が保険に入っていないことに備え、御自身の保険契約を見直すことをお勧めします。

 交通事故に関するご相談は、お気軽に弁護士法人心へお問合せください。
 

裁判で時間がかかる理由

カテゴリ: その他

1 はじめに
 事故の賠償金を取得するまでの、示談(任意の話し合い)による解決と、裁判による解決とを比較した場合、裁判のほうが時間がかかると一般的に言われています。
 その理由について、お伝えします。
  
2 手続が厳格であること
 示談の場合、どのような書類を提出するかについて、一般的な決まりはありません。
 決まりがないからといって、何でもありというわけではなく、被害者側の請求や主張が、相手方関係者(相手方が契約している保険会社を含む)に正しく伝わらなければなりませんが、提出すべき書類の種類や、提出期限が定められているものではありません。
 これに対し、裁判では、提出すべき書類が定められています。
 例えば、訴え提起をする際には、訴状、証拠書類のほかに、所定の印紙・切手の添付や、被告の人数分の書類(訴状と証拠書類の写し)を作成して提出しなければなりません。
 また、請求の内容ごとに、最低限明らかにしなければならない事実が定められており、必要な事実が漏れていると、請求が認められないということになってしまいます。

 

3 裁判官が関与すること及び期日が定められていること
 ⑴ 裁判官の関与
  裁判の手続は、事故の被害者と加害者(加害者が契約する保険会社)による話し合いがうまくいかない時に開始されます。
  話し合いが順調に進むのであれば、あえて時間や費用をかけてまで裁判をする必要はないためです。
  裁判では、裁判官が最終的な判断を行いますが、その前提として、相手方のみならず、裁判官にも必要な内容を伝え、理解してもらう必要があります。
  一般的に、裁判官は多忙であり、複数の事件を担当しているため、裁判官が事件の内容を把握するまでに、時間がかかってしまうことがあり、結果として、解決までの時間を要することがあります。


 ⑵ 期日が定められていること
  示談の場合、双方が各自の判断に応じて必要な書類を相手方に送り、その返答を待つこととなり、送る時期や回答の時期について決まった期限はないのが通常です。
  これに対し、裁判では、手続を行う日(期日)が定められ、期日以外の日において手続を進めることはありません。
  期日が定められることにより、事件の進行が遅れてしまうことがあります。

 

4 不服申立てができること
 裁判所が出した判決に対しては、最終審である最高裁の判決を除き、不服を申し立てることができます。
 不服に対する審査は、これまでとは別の裁判官が、最初から検討し、判断することになります。
 いわば、これまで他の裁判官が行っていた検討が、いったんリセットされるのと同じですから、その分、最終的な結論が出るまでに時間がかかることになります。

 

5 裁判の利点
 これまで、裁判によった場合に時間がかかる理由についてのみお伝えしましたが、裁判には、示談にはない利点があります。
 それは、裁判の判断に拘束力・強制力があり、公的な機関が一定の結論(事故による損害賠償請求の場合は、損害賠償金支払の要否と、賠償金を支払うべきとされた場合の賠償金の金額)を示すことにより、最終的な解決が図られる、ということです。
 手続が厳格であるのは、その判断が強制力・拘束力を有するが故に、慎重に判断するためのしくみとして、厳格な手続とされたものです。

 

6 おわりに
 解決の早さという点では、裁判によらずに示談にて解決するに越したことはありません。
 しかし、事案によっては、裁判によらざるを得ないこともありますので、専門家である弁護士にご相談ください。

裁判基準の示談金よりも自賠責保険金が上回る場合

カテゴリ: その他

1 はじめに
 自動車賠償責任保険における保険金の算定方法(以下「自賠基準」といいます。)と、裁判あるいは示談での賠償金の算定方法(以下「裁判基準」といいます。)とでは、算定方法に異なる点があります。
 この違いにより、同じ事故による損害について、一般的には、裁判基準による金額が、自賠基準による金額を上回ることのほうが多くなりますが、まれに、自賠基準による金額が裁判基準による金額を上回ることがあります。
  
2 自賠基準と裁判基準の違い
  以下のような違いがあります。
 ⑴ 入通院慰謝料算定方法の違い
  自賠基準では、治療期間中の入通院日数の2倍の日数と、治療期間全体の日数を比較し、いずれか少ない方に、1日当たり4300円を乗じて算定します。
  これに対し、裁判基準では、日数ではなく入通院期間に応じて慰謝料額を算定します。
 ⑵ 休業損害について
  通院したことによる休業損害について、裁判基準では、通院に要した時間に応じて算定し、全日休業したとして算定することはしないのが一般的です。
  しかし、自賠基準における休業損害は、1日当たりの実際の休業時間にかかわらず、最低でも1日当たり6100円が支払われます。
 ⑶ 過失相殺について
  裁判基準では、双方に過失がある場合、過失の程度にかかわらず、必ず過失相殺が行われます。
  これに対し、自賠基準では、被害者の過失割合が7割以上の場合に限り、自賠責保険から支払われる金額を減額することとしています。
  このため、自賠基準では、多くの場合、被害者の過失による減額はされないこととなります。

 

3 自動車賠償責任保険からの支払額上限について
 けがによる自賠責保険からの支払限度額は、医療費、入通院慰謝料、通院のための交通費及び休業損害を含め、合計120万円までとされています。
 このため、入通院日数が多く慰謝料が高額となった場合でも、120万円を超えることを理由に、慰謝料の一部しか支払われないことがあります。
 例えば、医療費が60万円、休業損害が30万円及び慰謝料40万円の合計130万円が発生したとしても、自賠責保険からの支払額は、120万円にとどまります。
 しかし、運行供用者及び運転者のいずれにも当たらず、複数の自動車が関与する事故に遭った被害者の場合、上記120万円の上限が、120万円×関係者の数を乗じた金額に拡大されます。
 各加害者が契約する自賠責保険それぞれより、支払を受けることができるためです。
 例えば、タクシーであるA車に乗客として乗車中、B車と衝突する事故に遭い、この事故について双方の運転手に責任(過失)がある場合、乗客に対する自賠責保険からの支払上限額は、120万円×2=240万円となります。

 

4 自賠責基準が裁判基準を上回った例
 この事例では、裁判基準による算定額(既払金を除く)が約110万円であったのに対し、自賠基準による算定額(同)は約180万円となりました。
  以下の4つの事情が、その原因です。
 ⑴ 通院慰謝料について、通院日数が多かったことにより、自賠基準のほうが裁判基準を上回った。
 ⑵ 休業損害について、自賠基準に基づき、通院日全てについて1日当たり6100円の金額が支払われたことにより、この金額が、実際の収入及び休業時間(通院に要した時間)よる金額を上回った。
 ⑶ 裁判基準では過失相殺による減額がされたのに対し、自賠基準では減額されなかった。
 ⑷ 2つの自賠責保険からの支払を受けることができ、自賠責保険金の上限が240万円となったことで、一般的な事例よりも高額な慰謝料・休業損害であっても、そのほとんどが支払われた。

 

5 まとめ
 今回お伝えした事案のように、事案によっては、自賠基準が裁判基準を上回ることがありますので、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。

車両保険加入の利点について

カテゴリ: その他

1 はじめに
 法的に加入義務のある自動車賠償責任保険に加え、任意保険にも加入しておくべきことについて、以前にお伝えしましたが、今回は、車両保険加入による利点についてお伝えしたいと思います。
 車両保険(御自身の車両が事故により損傷した場合に、修理費用などを、事故の相手方ではなく御自身の保険会社に支払ってもらうための保険。)の加入率は、任意の賠償責任保険(事故の相手方に対する賠償金を保険会社に支払ってもらうための保険。)に比べ低いとの統計があります。(賠償責任保険が70%台であるのに対し、車両保険は40%台)
 加入率が低い理由について、車両保険の保険料が比較的高めであることが理由と思われます。
 しかし、弁護士として交通事故の案件を扱っている立場からすると、車両保険には、次のような利点があり、できれば加入することをお勧めします。
  
2 相手方が任意保険に加入していないことに対する備え
 自動車賠償責任保険は、死亡やけがに対する賠償のための保険であり、物損(車両の損傷など、物の損害。)は対象外です。
 これに加えて、自動車賠償責任保険は、これに加入していない場合は法律違反となり、場合によっては刑罰に処せられるとの強制力があるのに対し、物損に関する保険については加入義務がないため、物損の方が「事故の相手方が保険に加入していなかった」となる可能性が高くなります。
 そして、相手方の資力が不十分であったり無資力である場合には、仮に裁判で勝訴したとしても、相手方から必要な支払を受けることができない、ということがあり得ます。
 これに対し、車両保険に加入しておけば、必要な費用を御自身の保険会社から支払ってもらうことができるため、支払ってもらえないとの事態を回避することができます。

 

3 相手方保険会社とのトラブル回避
 相手方が任意保険に加入しており、必要な賠償額が支払われることについて確実であったとしても、実際の支払までには、相手方本人や相手方の保険会社との間で、過失割合や実際の損害額についての合意することが必要であるところ、事案によっては、合意ができず、裁判までもつれてしまうことがあります。
 このような場合、車両保険に加入していれば、過失割合に関係なく、必要な費用の支払を受けることができ、相手方とのトラブルを避けることができます。

 

4 保険料の値上がりについて
 車両保険を使用した場合、その後一定期間、保険料が値上がりしますが、このことも車両保険加入率が低い理由かもしれません。
 しかし、昨今の車両保険の中には、無過失特約といって、被害者に過失がなければ、車両保険を使用しても保険料の値上がりがないとの特約があります。
 事故の中で一番数が多いと思われるのが「停止中、相手車両に追突された」という類型であり、被害者に過失がない事故であるため、無過失特約があれば、車両保険使用による保険料の値上がりを避けることができる可能性があります。

 

5 相手方の物損提示額の妥当性の確認
 相手方が任意保険に加入している場合、物損に対する確認は、相手方保険会社により行われるのが一般的です。
 相手方保険会社には、相手方が賠償責任を負う場合には保険金支払義務があり、その前提として、上記確認を行う必要があるためです。
 しかし、車両保険に加入している場合には、御自身の保険会社も同様の義務を負うため、確認作業を行うこととなります。
 これにより、相手方が示す物損の額が妥当かどうか、御自身の保険会社の見解と比較して判断することができます。

 

5 おわりに
 最後は、保険料支払によるご負担を踏まえての判断かとは思いますが、車両保険の必要性について、見直していただければと思います。

裁判のメリットとデメリット

カテゴリ: その他

1 はじめに
  多くの方は、「裁判はお金と時間がかかる」というイメージを持たれているのではないかと思います。
  なぜ、そのようなイメージとなってしまうかについて、裁判による紛争解決と、裁判によらない解決(このような解決方法を「示談」といいます。)を比較すると、わかりやすいかと思います。
  
2 訴え提起に係る印紙代など
  裁判による訴えでは、原告の経済状態が苦しいこと及び勝訴の見込みがあることを裁判所が認めた場合を除き、請求額に応じた印紙を訴状に貼らなければならないことになっています。
  また、裁判でのやりとりにおいては、訴状の送達など、書類の郵送が必要となる場合があるため、印紙代の他に、裁判所より指示された切手を一緒に納めることになっています。
  これに対し、示談の場合は、あくまで当事者間の協議であるため、印紙代や切手代の納付義務はありません。
  また、裁判所以外の紛争処理機関、例えば交通事故紛争処理センターでの話し合いを進める場合でも、印紙代や切手代の納付は不要とされています。
  ただし、御自身が加入する保険に、弁護士費用特約が含まれている場合は、弁護士への報酬以外に、裁判にかかる費用も保険にてまかなうことができるため、上記の経済的負担は軽減されることになります。

 

3 解決までの時間について
  裁判の方が時間がかかりやすいことは事実です。
  といいますのは、裁判以外の示談や紛争処理センターの場合、当事者の合意ができなければ紛争解決とはなりませんが、裁判の場合は、協議ができなければ、最後は必ず裁判所が一定の判断(判決)を示すことになっています。
  そして、この判決は、裁判所という国の機関の判断ということになり、これが確定すれば、当事者の意向とは無関係に、関係者を拘束することとなります。
  判決は、このような重大な効力を持っているため、判断する裁判所としても、慎重な検討をせざるを得ず、その分、判断が出されるまでに時間がかかることになってしまいます。
  また、裁判以外の解決方法では、ドラマの法廷シーンで出てくるような証人尋問が行われることは、まずありませんが、逆に裁判の場合は実施されることが多いので、これも時間がかかってしまう原因となっています。

 

4 裁判と、裁判以外の紛争解決方法の使い分け方
  交通事故の場合、これまで多数の事故と、これに対する裁判が積み重ねられてきたことにより、他の類型の事件以上に、結論の見通しが立てやすいことが多いです。
  このような見通しの立てやすい事件は裁判以外の紛争処理方法に委ね、これ以外の本当に難しい事案について、裁判に委ねる、といった使い分け方が考えられます。

 

5 おわりに
  弁護士に事件解決を相談あるいは依頼される際、どのような方法により解決すべきかについても、弁護士とよく相談されることをお勧めします。

裁判と示談の違い

カテゴリ: その他

1 交通事故に限らず、紛争が生じた場合、いきなり裁判となるのではなく、まずは当事者間での協議から始まることが多く、また、交通事故の事件では、裁判までに至らずに解決に至っているものが数多くあります。
  
2 いきなり裁判とせずに、協議から始めるのは、紛争をなるべく避けたい、穏便に解決したいということももちろんありますが、やはり、裁判となった場合、時間と費用を要することがその理由ではないかと思います。
  昨今は、新型コロナの流行を契機として、裁判所にでかけなくても、電話やウエブ会議で裁判手続を進めることができるようになってきましたが、それより前の時期では、裁判所に出かけるだけでも時間と費用を要する状態でした。

 

3 これに対し、示談の場合は、多くは文書と電話でのやりとりで協議を進めるため、出かける時間や費用はかかりません。
  また、裁判所での手続ですと、手続を進める日(期日)が定められ、多くの場合、期日は1か月に1回程度の割合で指定されるため、手続の進行が制限されることとなりますが、示談の場合は、期日に縛られずに、双方が柔軟に進行することができるため、当事者の合意ができれば、裁判よりも早期に解決することができます。
  さらに、合意の際、支払をすることとなる当事者は、合意した金額について支払うことができるかどうかを考えた上で合意するのが通常ですので、合意したにもかかわらず、支払をしないという事態を避けることができます。

 

4 もっとも、話し合いができなければ、裁判によらざるを得ません。
  裁判には、当事者の意向にかかわらず、第三者が公的な見解(結論)を示し、これを確定させるという機能があるためです。
  その一方で、裁判所は、あくまで「結論」を示すだけであって、例えば、判決が「〇〇円を支払え」との内容であった場合、判決後、このとおり支払われるかについては、判決では全く考慮しません。
  また、支払うべき相手方に財産がなければ、「ない袖は振れない」のことわざのとおり、判決があっても支払を受けられないということもありえます。

 

5 このため、まずは話し合いから進め、どうしても話し合いができない場合に裁判に進む、との手順になります。
  また、裁判となった場合でも、その中で話し合いができれば、和解といって、一方的な判決によるのではなく、双方の合意に基づく解決をする手続も用意されています。
  話し合いの際、被害者と加害者との二者では合意できなかった者が、裁判所という第三者が関与し、その見解を考慮することで、合意ができることもあるためです。

 

6 私ども弁護士としては、裁判と示談のそれぞれの違い、長所と短所を踏まえた上で、適切な解決ができるよう、お手伝いさせていただければと考えております。

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交差点事故と過失割合

カテゴリ: その他

1 交差点に対する道路交通法の規定
  交差点は、複数の車両や人が行き交う場所であるが故に、事故が起こりやすい場所となっています。
  このため、道路交通法36条4項では「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と定めています。
  簡単にまとめると、交差点を走行する車両は、他の車両や歩行者の動きに注意し、できる限り、安全に配慮して走行しなければならない、ということであり、互いに、事故を避けるための義務が課されていることになります。

 

2 過失割合について
 ⑴ 事故に遭われた経験がある方はご存じかもしれませんが、交差点での車両どうしの事故の場合、過失割合が問題となることが一般的です。
   過失割合は、事故に対する双方の責任の割合です。
   例えば、相手方の過失割合が100、自分の過失割合が0であれば、自分は相手方に事故による損害額全部を請求できる一方、相手方は1円も請求できません。
   過失割合が50:50であれば、互いに、相手方の損害の半分を賠償することになります。
   過失割合が問題となるのは、先ほどにお示しした道路交通法の条文のとおり、互いに事故を避けるための義務が課されていることによるものです。
   このため、片方の当事者が一方的に全部の責任を負うのは(過失割合が10:0となるのは)、赤信号を無視して交差点に進入した場合など、一部の事例に限られています。


 ⑵ 事故の当事者間の公平を期するため、事故の類型ごとに過失割合が定められ、これに従って、当事者間の交渉や裁判が行われています。
      このため、不幸にして遭遇した事故が、上記の類型に当てはまるものであれば、これに基づく過失割合を前提として示談や裁判がされるのが通例です。


 ⑶ 交差点の事故において、他方の過失割合が0とされることは、あまりありません。
      これは、上記の1でお伝えしたとおり、交差点を走行する車両双方に事故を避けるための義務が課せられていることによるものです。

 

3 過失割合が0とされる場合
 ⑴ 過失と結果回避義務違反
      単に過失というと、不注意であること、と思われるかも知れませんが、法律上の過失の本質は「結果回避義務違反」とされ、車両どうしの交通事故の場合であれば、事故を避けるために運転者としてすべき注意義務(安全確認義務、速度遵守義務など)を怠り、これが原因となって事故が発生したと認められる場合に、過失ありとされます。
      逆に言えば、運転者としての注意義務を尽くしていたにもかかわらず、事故を避けることができなかったのであれば、過失ありとはされません。
      例えば、交差点通過時、相手車が停止していることを確認して通過する途中、自車と相手車両が至近距離に接近したところで、急に相手車が発進し衝突した場合、自車としては、運転上の注意義務を尽くしており、かつ、至近距離で突然発進した相手車との衝突を避けることは不可能なので、自車は過失なし(結果回避義務違反なし)とされます。

 

 ⑵ 予見義務と信頼の原則
   結果回避義務を尽くすためには、事故発生の危険を予知する必要があります。
   例えば、交差点通過時においては、他の車両がいれば、その車両が不意に交差点に進入してくることを予想して、他の車両の動向に注意したり、速度を落とす(徐行する)といった結果回避義務が求められることになります。
   上記のように、結果回避義務を尽くす前提としての予見をする義務を、予見義務といいます。
    しかし、これを強調しすぎると、例えば、相手側の信号が赤であったとしても、相手が不意に発進してくることを予見しなければならない、といった過剰な予見義務と、これを前提とした結果回避義務が課されることとなり、かえって、円滑な交通が阻害されることになってしまいます。
     上記の例であれば、交差点に達するたびに、徐行・減速をしなければならないことになります。
     そこで、「相手方が交通ルールに沿った運転をすることを前提として行動すれば足りる」とのルールが判例によって認められており、これを「信頼の原則」といいます。
     信頼の原則があることで、過剰に予見義務が課されることを防ぐことができます。
     ただし、赤信号の交差点に猛スピードで進む車両に出くわした場合など、相手方が交通ルールに沿った運転をすることが期待できない場合には、前提となる「交通ルールに沿った相手方の運転」がすでに崩れていることから、信頼の原則は適用されず、他車は青信号であっても交差点に進入しないことにより相手車との衝突を避けるなどの、結果回避義務が求められることになります。
   
4 過失割合の変更
    過失割合は、双方の事故時の速度や、合図の有無(ウインカーの点滅の有無)などにより変わる可能性がありますが、一瞬で発生する事故において、これらの事実を確認することには困難が伴います。
    昨今は、ドライブレコーダーの画像を参照し、静止画での再生や低速での再生をすることなどにより、事故の態様や、合図の有無のような事実の有無を確認することができるようになってきましたが、依然として、ドライブレコーダーが備え付けられておらず、画像の確認ができない事故も少なくありません。
    この場合は、双方運転者の供述や、事故現場に残された事故の痕跡(スリップ痕、擦過痕など)を手がかりに、事故態様を検討するという、専門的な対応が必要となります。
    また、一般的な類型に当てはまらない事故においては、これに類似した判例を探したり、他の類型と比較しながら過失割合を検討するなどします。

 

5 終わりに
  過失割合を検討するに当たっては、事実の確認と、これに対しどのような過失割合を適用するかを判断するに際し、専門的な判断が必要となります。
  過失割合について疑問をもたれた場合は、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。

判例について

カテゴリ: その他

1 はじめに
 判例(裁判例)は、過去に出された裁判所の判断(判決が典型例ですが、これ以外の「決定」「審判(家庭裁判所での判断)」と呼ばれるものもあります。)ですが、これがどのような役割を果たしているが、一般の方はご存じないのではないかと思います。
 判例の役割について、ご説明させていただきます。

 

2 判例と裁判例の違い
 過去に出された裁判所の判断について、一般的には「判例」ということが多いですが、時に「裁判例」として、判例と区別する場合があります。
 区別される場合、判例は最高裁での判断であり、裁判例は、最高裁以外の裁判所(高裁、地裁など)による判断をいいます。
 このような区別がされるのは、次に説明するとおり、判例と裁判例では、その重要性や役割が、全く異なるためです。

 

3 判例と裁判例の違い
 ⑴ 判例は最高裁の判断+実務の指針
 判例は、最高裁の判断です。
 裁判は、地裁、高裁、最高裁と進んでいき、最高裁の判断が最終的な判断となりますが、その過程で、同じ法律上の問題について、ある裁判所ではAとの答えであったのに対し、別の裁判所ではBというように、裁判所ごとに判断が分かれた場合、最高裁は、A,Bのいずれか、あるいは新たにCと判断(答え)を出すことで、その後は、同種の問題が生じた場合、先の最高裁の判断が、その後の問題についても適用されることになります。
 つまり、いったん出された最高裁の判断は、その後も維持される(ただし、例外的に変更されることもあります。)ことで、裁判所全体の判断の基準となります。
 仮に、過去の判例(最高裁の判断)と異なる判断を、他の裁判所がしたとしても、その判断は、判例に反することを理由に訂正されますし、異なる判断をした裁判官については、判例を見落としたと批判されることにもなります。
 判例は、裁判所全体の指針としての役割をもっています。

 

 ⑵ 裁判例は、あくまで過去の例
  ア これに対し、裁判例は、あくまで、ある裁判所がそのような判断をしたとの過去の事実にすぎず、これが当然に、その後の実務の指針となるものではありません。
    これは、先ほどの例のように、同じ問題でもAとBといったように、裁判所の判断が分かれることがあることからも明らかです。
    同じ問題について、最高裁以外の裁判所の判断が分かれている間は、たとえ自己の見解と同じ裁判例があったとしても、これと同じ判断を最高裁が行い、実務の指針となるかについては、まだ確定していません。
    分かれた判断について、最高裁が最終的な判断をすることにより、初めて、その後の実務の指針となります。


  イ それでは、裁判例があくまで個別の例に過ぎず、全く役に立たないかというと、そうではありません。
    最高裁の判断が未了であり、複数ある結論のいずれかを取るべきか考える際に、裁判例に記載された「判断に対する理由」を比較、検討することで、あるべき結論が見えてくる場合があります。
    裁判例には、解決の糸口を示す役割があります。
    実際、最高裁の判断も、それまでに出された裁判例や、学説などの文献を比較検討した上で、行われているものです。
    また、交通事故などにおける慰謝料や、量刑(ある犯罪に対して懲役何年とすべきかを検討するような場合)を決める際、似たような事例についての、他の裁判例を比較し、慰謝料額や量刑がどのようになっているかを検討することで、今起きている裁判の結論を予想したり、同じ事例なのに裁判所ごとに結論が大きく異なるという、不公平な事態を避けることができます。
   
4 結論だけではなく理由も大事
 上記イのとおり、裁判例を比較するためには、結論の前提となった理由を理解することが必要になります。
 理由がきちんとしている(結論に至る内容について、一貫している)と、最高裁も同様の結論・理由とする可能性が高くなります。

 

5 終わりに
 時々、ご自身の結論と同じ裁判例(最高裁以外の裁判所の判断)を見つけて、それでよしとしている方がいらっしゃいますが、それではだめなことについて、おわかりいただけたかと思います。
 判例・裁判例を検討したり理解するのは、一般の方にはなかなか難しいと思いますので、判例の検討などが必要な際は、専門家である弁護士にご相談ください。

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