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裁判と示談の違い

カテゴリ: その他

1 交通事故に限らず、紛争が生じた場合、いきなり裁判となるのではなく、まずは当事者間での協議から始まることが多く、また、交通事故の事件では、裁判までに至らずに解決に至っているものが数多くあります。
  
2 いきなり裁判とせずに、協議から始めるのは、紛争をなるべく避けたい、穏便に解決したいということももちろんありますが、やはり、裁判となった場合、時間と費用を要することがその理由ではないかと思います。
  昨今は、新型コロナの流行を契機として、裁判所にでかけなくても、電話やウエブ会議で裁判手続を進めることができるようになってきましたが、それより前の時期では、裁判所に出かけるだけでも時間と費用を要する状態でした。

 

3 これに対し、示談の場合は、多くは文書と電話でのやりとりで協議を進めるため、出かける時間や費用はかかりません。
  また、裁判所での手続ですと、手続を進める日(期日)が定められ、多くの場合、期日は1か月に1回程度の割合で指定されるため、手続の進行が制限されることとなりますが、示談の場合は、期日に縛られずに、双方が柔軟に進行することができるため、当事者の合意ができれば、裁判よりも早期に解決することができます。
  さらに、合意の際、支払をすることとなる当事者は、合意した金額について支払うことができるかどうかを考えた上で合意するのが通常ですので、合意したにもかかわらず、支払をしないという事態を避けることができます。

 

4 もっとも、話し合いができなければ、裁判によらざるを得ません。
  裁判には、当事者の意向にかかわらず、第三者が公的な見解(結論)を示し、これを確定させるという機能があるためです。
  その一方で、裁判所は、あくまで「結論」を示すだけであって、例えば、判決が「〇〇円を支払え」との内容であった場合、判決後、このとおり支払われるかについては、判決では全く考慮しません。
  また、支払うべき相手方に財産がなければ、「ない袖は振れない」のことわざのとおり、判決があっても支払を受けられないということもありえます。

 

5 このため、まずは話し合いから進め、どうしても話し合いができない場合に裁判に進む、との手順になります。
  また、裁判となった場合でも、その中で話し合いができれば、和解といって、一方的な判決によるのではなく、双方の合意に基づく解決をする手続も用意されています。
  話し合いの際、被害者と加害者との二者では合意できなかった者が、裁判所という第三者が関与し、その見解を考慮することで、合意ができることもあるためです。

 

6 私ども弁護士としては、裁判と示談のそれぞれの違い、長所と短所を踏まえた上で、適切な解決ができるよう、お手伝いさせていただければと考えております。

交差点事故と過失割合

カテゴリ: その他

1 交差点に対する道路交通法の規定
  交差点は、複数の車両や人が行き交う場所であるが故に、事故が起こりやすい場所となっています。
  このため、道路交通法36条4項では「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と定めています。
  簡単にまとめると、交差点を走行する車両は、他の車両や歩行者の動きに注意し、できる限り、安全に配慮して走行しなければならない、ということであり、互いに、事故を避けるための義務が課されていることになります。

 

2 過失割合について
 ⑴ 事故に遭われた経験がある方はご存じかもしれませんが、交差点での車両どうしの事故の場合、過失割合が問題となることが一般的です。
   過失割合は、事故に対する双方の責任の割合です。
   例えば、相手方の過失割合が100、自分の過失割合が0であれば、自分は相手方に事故による損害額全部を請求できる一方、相手方は1円も請求できません。
   過失割合が50:50であれば、互いに、相手方の損害の半分を賠償することになります。
   過失割合が問題となるのは、先ほどにお示しした道路交通法の条文のとおり、互いに事故を避けるための義務が課されていることによるものです。
   このため、片方の当事者が一方的に全部の責任を負うのは(過失割合が10:0となるのは)、赤信号を無視して交差点に進入した場合など、一部の事例に限られています。


 ⑵ 事故の当事者間の公平を期するため、事故の類型ごとに過失割合が定められ、これに従って、当事者間の交渉や裁判が行われています。
      このため、不幸にして遭遇した事故が、上記の類型に当てはまるものであれば、これに基づく過失割合を前提として示談や裁判がされるのが通例です。


 ⑶ 交差点の事故において、他方の過失割合が0とされることは、あまりありません。
      これは、上記の1でお伝えしたとおり、交差点を走行する車両双方に事故を避けるための義務が課せられていることによるものです。

 

3 過失割合が0とされる場合
 ⑴ 過失と結果回避義務違反
      単に過失というと、不注意であること、と思われるかも知れませんが、法律上の過失の本質は「結果回避義務違反」とされ、車両どうしの交通事故の場合であれば、事故を避けるために運転者としてすべき注意義務(安全確認義務、速度遵守義務など)を怠り、これが原因となって事故が発生したと認められる場合に、過失ありとされます。
      逆に言えば、運転者としての注意義務を尽くしていたにもかかわらず、事故を避けることができなかったのであれば、過失ありとはされません。
      例えば、交差点通過時、相手車が停止していることを確認して通過する途中、自車と相手車両が至近距離に接近したところで、急に相手車が発進し衝突した場合、自車としては、運転上の注意義務を尽くしており、かつ、至近距離で突然発進した相手車との衝突を避けることは不可能なので、自車は過失なし(結果回避義務違反なし)とされます。

 

 ⑵ 予見義務と信頼の原則
   結果回避義務を尽くすためには、事故発生の危険を予知する必要があります。
   例えば、交差点通過時においては、他の車両がいれば、その車両が不意に交差点に進入してくることを予想して、他の車両の動向に注意したり、速度を落とす(徐行する)といった結果回避義務が求められることになります。
   上記のように、結果回避義務を尽くす前提としての予見をする義務を、予見義務といいます。
    しかし、これを強調しすぎると、例えば、相手側の信号が赤であったとしても、相手が不意に発進してくることを予見しなければならない、といった過剰な予見義務と、これを前提とした結果回避義務が課されることとなり、かえって、円滑な交通が阻害されることになってしまいます。
     上記の例であれば、交差点に達するたびに、徐行・減速をしなければならないことになります。
     そこで、「相手方が交通ルールに沿った運転をすることを前提として行動すれば足りる」とのルールが判例によって認められており、これを「信頼の原則」といいます。
     信頼の原則があることで、過剰に予見義務が課されることを防ぐことができます。
     ただし、赤信号の交差点に猛スピードで進む車両に出くわした場合など、相手方が交通ルールに沿った運転をすることが期待できない場合には、前提となる「交通ルールに沿った相手方の運転」がすでに崩れていることから、信頼の原則は適用されず、他車は青信号であっても交差点に進入しないことにより相手車との衝突を避けるなどの、結果回避義務が求められることになります。
   
4 過失割合の変更
    過失割合は、双方の事故時の速度や、合図の有無(ウインカーの点滅の有無)などにより変わる可能性がありますが、一瞬で発生する事故において、これらの事実を確認することには困難が伴います。
    昨今は、ドライブレコーダーの画像を参照し、静止画での再生や低速での再生をすることなどにより、事故の態様や、合図の有無のような事実の有無を確認することができるようになってきましたが、依然として、ドライブレコーダーが備え付けられておらず、画像の確認ができない事故も少なくありません。
    この場合は、双方運転者の供述や、事故現場に残された事故の痕跡(スリップ痕、擦過痕など)を手がかりに、事故態様を検討するという、専門的な対応が必要となります。
    また、一般的な類型に当てはまらない事故においては、これに類似した判例を探したり、他の類型と比較しながら過失割合を検討するなどします。

 

5 終わりに
  過失割合を検討するに当たっては、事実の確認と、これに対しどのような過失割合を適用するかを判断するに際し、専門的な判断が必要となります。
  過失割合について疑問をもたれた場合は、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。

判例について

カテゴリ: その他

1 はじめに
 判例(裁判例)は、過去に出された裁判所の判断(判決が典型例ですが、これ以外の「決定」「審判(家庭裁判所での判断)」と呼ばれるものもあります。)ですが、これがどのような役割を果たしているが、一般の方はご存じないのではないかと思います。
 判例の役割について、ご説明させていただきます。

 

2 判例と裁判例の違い
 過去に出された裁判所の判断について、一般的には「判例」ということが多いですが、時に「裁判例」として、判例と区別する場合があります。
 区別される場合、判例は最高裁での判断であり、裁判例は、最高裁以外の裁判所(高裁、地裁など)による判断をいいます。
 このような区別がされるのは、次に説明するとおり、判例と裁判例では、その重要性や役割が、全く異なるためです。

 

3 判例と裁判例の違い
 ⑴ 判例は最高裁の判断+実務の指針
 判例は、最高裁の判断です。
 裁判は、地裁、高裁、最高裁と進んでいき、最高裁の判断が最終的な判断となりますが、その過程で、同じ法律上の問題について、ある裁判所ではAとの答えであったのに対し、別の裁判所ではBというように、裁判所ごとに判断が分かれた場合、最高裁は、A,Bのいずれか、あるいは新たにCと判断(答え)を出すことで、その後は、同種の問題が生じた場合、先の最高裁の判断が、その後の問題についても適用されることになります。
 つまり、いったん出された最高裁の判断は、その後も維持される(ただし、例外的に変更されることもあります。)ことで、裁判所全体の判断の基準となります。
 仮に、過去の判例(最高裁の判断)と異なる判断を、他の裁判所がしたとしても、その判断は、判例に反することを理由に訂正されますし、異なる判断をした裁判官については、判例を見落としたと批判されることにもなります。
 判例は、裁判所全体の指針としての役割をもっています。

 

 ⑵ 裁判例は、あくまで過去の例
  ア これに対し、裁判例は、あくまで、ある裁判所がそのような判断をしたとの過去の事実にすぎず、これが当然に、その後の実務の指針となるものではありません。
    これは、先ほどの例のように、同じ問題でもAとBといったように、裁判所の判断が分かれることがあることからも明らかです。
    同じ問題について、最高裁以外の裁判所の判断が分かれている間は、たとえ自己の見解と同じ裁判例があったとしても、これと同じ判断を最高裁が行い、実務の指針となるかについては、まだ確定していません。
    分かれた判断について、最高裁が最終的な判断をすることにより、初めて、その後の実務の指針となります。


  イ それでは、裁判例があくまで個別の例に過ぎず、全く役に立たないかというと、そうではありません。
    最高裁の判断が未了であり、複数ある結論のいずれかを取るべきか考える際に、裁判例に記載された「判断に対する理由」を比較、検討することで、あるべき結論が見えてくる場合があります。
    裁判例には、解決の糸口を示す役割があります。
    実際、最高裁の判断も、それまでに出された裁判例や、学説などの文献を比較検討した上で、行われているものです。
    また、交通事故などにおける慰謝料や、量刑(ある犯罪に対して懲役何年とすべきかを検討するような場合)を決める際、似たような事例についての、他の裁判例を比較し、慰謝料額や量刑がどのようになっているかを検討することで、今起きている裁判の結論を予想したり、同じ事例なのに裁判所ごとに結論が大きく異なるという、不公平な事態を避けることができます。
   
4 結論だけではなく理由も大事
 上記イのとおり、裁判例を比較するためには、結論の前提となった理由を理解することが必要になります。
 理由がきちんとしている(結論に至る内容について、一貫している)と、最高裁も同様の結論・理由とする可能性が高くなります。

 

5 終わりに
 時々、ご自身の結論と同じ裁判例(最高裁以外の裁判所の判断)を見つけて、それでよしとしている方がいらっしゃいますが、それではだめなことについて、おわかりいただけたかと思います。
 判例・裁判例を検討したり理解するのは、一般の方にはなかなか難しいと思いますので、判例の検討などが必要な際は、専門家である弁護士にご相談ください。

ご自身の過失割合が大きい場合の対処法について

カテゴリ: その他

1 過失割合について 

 自動車どうしの事故の場合、一方が全部の過失割合を負担するという場合は、赤信号無視での交差点進入など、一部の類型に限られています。
 これは、道路交通法において、双方の運転者に対し、安全に対する義務(事故を起こさないようにする義務)が規定されているためです。
 例えば、交差点での安全運転義務(36条4項「~できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」)、車両運転一般に際しての安全運転の義務(70条「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」)などです。

 

2 過失割合の定め方
 これまでの実務や、裁判例の動向を踏まえ、事故の類型ごとに、一定の過失割合が定められています。
 例えば、優先道路走行中の車両と、側道から進入しようとした車両とが衝突した場合、側道の車両は優先道路進行車両の走行を妨げてはならないこと(道路交通法36条2項)から、優先道路走行車両の過失割合を10、側道からの車両を90とするのが一般的です。
 また、交差点で、双方の車両が対面する状態で、かつ、赤信号の状態で交差点に進入し、直進車と右折車が衝突した場合は、双方が赤信号無視であることから、50:50とされています。

 

3 自分の過失割合の方が高い場合

 

 ⑴ 事故の過失割合が大きい場合、相手方からの賠償 額は、その分、大きく減額されてしまいます。
   例えば、上記10:90の事例で、修理費が100万円発生したとしても、過失割合が90とされてしまうと、相手方には10万円しか請求できず、残りの90万円を自己負担しなければなりません。
   治療費が100万円であった場合も同様です。
   過失割合が大きい側としては、相手からの賠償額が大幅に減額されてしまうことについて、あきらめるしかないのでしょうか。
 

 ⑵ 自動車賠償責任保険の利用
  ア 自動車賠償責任保険は、慰謝料の算定においては、他の慰謝料の算定基準(裁判上の基準など)よりも低い基準となっていますが、過失相殺がされるのは、過失割合が7割以上の場合であり、かつ、過失相殺による減額の割合も、過失割合をそのまま適用するのではなく、減額をしない場合と比べて、2割から5割の減額にとどめられています。
    これは、自動車賠償責任保険が、事故の被害者を保護に重点を置いているためです。
  イ 上記の過失割合90の場合では、けがを理由とする保険金の減額は2割にとどまることになりますし、50:50の事例では、過失割合が70より小さいため、減額されません。
  ウ このため、ご自身の過失割合が大きい場合は、相手方に請求する前に、自動車賠償責任保険からの支払を受ける方が得策です。
  エ ただし、注意しなければならないのは、自動車賠償責任保険による補償は身体に対する損害であり、車両の修理費のような物的損害は対象外であるため、修理費については使用できません。
    また、いったん、自ら医療費などを実際に支払った後でないと、同保険に請求することができないので、いったんは、自ら費用を支払う必要があります。

 

 ⑶ 車両保険及び人身傷害保険の利用
   法律により加入が義務づけられている自動車賠償責任保険と異なり、車両保険及び人身傷害保険については、任意での加入となりますが、これらの保険からの支払であれば、過失相殺による減額がありませんし、相手方が無資力である場合、相手方から支払いを受けられないという事態を避けることができます。
   また、人身傷害保険の保険金は、過失相殺による減額分に充当されることとされているので、人身傷害保険からの支払と、相手方からの支払(過失相殺されない部分に対する支払)の両方を受けられるというメリットもあります。
   保険料の負担はありますが、もしものときに備えておくことが有益です。

 

 ⑷ 過失割合を小さくする
   先ほど、事故の類型により過失割合が定められている旨をお伝えしましたが、相手方が法定速度を超過していた場合など、過失割合を修正する事由が定められている場合があります。
   このような事由を主張立証することにより、事故の過失割合を小さくし、相手方からの賠償義務額を増やすことができます。

 

4 終わりに
  ご自身の過失割合が大きい場合でも、上記のとおり対応する方法がある場合もあります。
  お困りの際は、弁護士法人心・東京法律事務所の弁護士をはじめ、当事務所の弁護士にご相談ください。

休業損害について

カテゴリ: その他

1 交通事故により、けがをしたことが原因で、お仕事を休まざるを得ない場合があります。
  この場合、お勤めの方と、それ以外の方(主婦(主夫))とでは、休業による損害を認めてもらうための資料や、損害の算定の方法が異なります。

 

2 お勤めの方の場合

 

 ⑴ お勤めの方の場合は、自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)にて使用している所定の書式(休業日の記載のほかに、事故前3か月間の給与額についての記載欄などがあるもの)に、お勤め先の給与担当者などが記載し、会社がその記載が正しいことを証明する旨記載した、休業損害証明書を提出することで、休業損害が認められることが一般的です。

 

 ⑵ 被害者以外の者が記載内容を確認し、証明することになるので、その内容を巡り争いとなることは少ないのですが、以下のような問題が生じることがあります。
  ア 休業日1日当たりの金額を算定するに当たり、3か月の合計額につき、90日で割って算定するのか、それとも日曜日などの休日を除いた稼働日の合計日数(上記90日よりも少ない日数となり、1日当たりの金額が増えることになります。)で割って算定するかの問題。
    90日で割るのは自賠責保険における算定方法なのですが、我々弁護士が示談交渉に当たる際、稼働日の合計日数で割る方法で相手方に請求し、このとおり認められることも多いです。

 

  イ 事故直後の体調不良を理由とする休業や、通院日に該当する日の休業(通院日の確認は、医療機関が作成する診療報酬明細書にて確認できます。)は、休業の必要性があり休業日として認められることが一般的であるのに対し、事故日から期間が経過した日で、かつ、通院日には該当しない日については、休業損害証明書に休業日としての記載があったとしても、事故を原因とする休業日には当たらないとして、この日についての休業損害が認められないことが多いです。
    休業による損害が認められるのは、単に休業したことのみでは足りず、「事故によるけが(体調不良)が原因で休業した」ことが必要であるところ、通院日以外の日における休業については、けがや体調不良による休業であることが立証されないと、事故によるけがなどが原因で休業したと認めることはできないためです。

 

 ⑶ 社員ではなく役員の場合、休業損害が認められないことがあります。
   これは、社員が、所定の労働時間に実際に稼動することにより賃金を得ることができる、逆にいえば所定の労働時間に稼動しなかったのであれば賃金を得られず、これが損害となるのに対し、役員の場合は、いわゆる年俸制などのように、定められた労働日や労働時間がなく、事故により稼動できない期間があっても、そのことが直ちに報酬不払いの理由とはならないことによるものです。
   例えば、年俸600万円として、労働時間の多寡や有無にかかわらず、毎月50万円を支払う旨の契約であれば、事故により稼動できない期間があったとしても、被害者は所定の報酬を請求することができ、事故による損害は発生しないことになります。
   ただ、これは役員と会社との契約内容により異なり、中には、役員と社員としての両方の身分を併せ持つ方もいることから(使用人兼務役員などと呼ばれ、報酬と賃金の両方が支払われるため、他の一般社員と同様に、賃金部分について休業損害が発生することがあります。)、とにもかくにも、まずは被害者と会社との契約内容を確認することが必要となります。

 

3 主婦(主夫も含む)の方の場合

 

 ⑴ 主婦の場合、お勤めの方と異なり、休業を証明してくれる人がおりません。
   このため、けがの内容や程度(主に診断書にて確認します)に応じ、必要な休業日数を判断することになります。
   一般的には、事故の直後が一番けがが重く、徐々に回復していくのが通例なので、回復の度合いに応じて、休業の範囲・日数も限られていくのが通常です。
   ただし、通院をしたことにより、その間、家事をする時間が通院に充てられたこと(通院のため家事をすることができないこと)を理由として請求する場合は、けがの程度にかかわらず、当該通院時間分を休業損害として請求することができます。

 

 ⑵ お勤めの方の場合は、休んだ範囲が日にちや時間単位で明確になるのに対し(これらが休業損害証明書に明記されるため)、主婦の場合は、被害者本人の供述やけがの程度を考慮して、必要な休業の範囲を判断することになります。
   また、一口に家事といっても、労力を要し、比較的身体への負担が大きいもの(風呂掃除など)から、裁縫や家計簿の記載など、軽作業に分類されるものまで多岐にわたるため、けがの程度により、一部の家事をすることができる場合もあります。
   このため、日数や時間にて休業の範囲を定める方法のほかに、「健康なときの50%程度」などのように、割合にて休業の範囲を定めることもあります。

 

 ⑶ 主婦の方の一日当たりの休業損害は、女子平均賃金における年収を365日で割った金額とされることが多く、概ね、1日当たり1万円程度となります。

 

 ⑷ 主夫の方の場合、一般的な主婦の方と異なり、家事に従事したことの証拠(家族や近所の方の証言や、被害者自身が家族分の食材の買い物をしたことがわかるレシート(被害者名義のクレジットカードで支払われたことがわかるレシート)など)の提出を求められることがあります。
   また、世帯内に、家事に従事できる他の方がいる場合には、認められにくくなります。

 

4 終わりに
  これまでにご説明したとおり、休業損害についてはいろいろと難しい問題が発生することがありますので、これらについてお悩みの場合は、弁護士にご相談されることをお勧めします。
 

頸椎捻挫と後遺障害

カテゴリ: その他

1 はじめに
 交通事故によるけがの治療を続けても、回復の見込みがないとされる症状が残った場合、これが後遺障害と呼ばれる状態となります。
 その中で、一番数が多いと思われるのが、頸椎捻挫による頚部の痛みですが、損害賠償の対象となる後遺障害と認められるためには、原則として、自動車賠償責任保険において定められた後遺障害の等級(類型)に該当するものと認められる必要があります。
 多くの場合、該当するとされた場合の等級は、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」です。

 

2 後遺障害が認定されるための基準
 では、どのような症状や状態になれば「局部に神経症状を残すもの」に当たるかですが、明確な基準は不明というのが正直なところです。
 これは、上記の「神経症状」が、痛みなどの目に見えない症状であることによります。
 例えば、「関節の機能に障害を残すもの」であれば、障害のない同一の関節との可動域を比較し(例:左膝に障害が残ったのであれば、障害のない右膝の関節との可動域を比較する。)、障害のある方の関節の可動域が、障害のない関節の可動域と比べ4分の1以上、可動域が制限されていれば、「関節の機能に障害を残すもの」として後遺障害に該当することにつき、数値で判断することができます。(例:健康な右膝の可動域が100度であるのに対し、障害のある左膝の可動域が75度以下である場合など。)
 これに対し、痛みなどの神経症状は、目に見えるものではないため、上記のような客観的な基準を定めることができません。

 

3 認定される事例の傾向
 このように、明確な基準を定めることができないため、私たち弁護士が依頼者より「頚部・腰部の痛みの症状が、自動車賠償責任保険における後遺障害に該当するか。」との質問を受けても、確実なお答えをすることは難しいのが正直なところです。
 ただ、これまでの多数の案件に関わってきた経験に基づくものとして、後遺障害に認定されるための要素として、以下のものを挙げることができるのではないかと考えています。


 ⑴ 単なる痛みだけではなく、腱反射の異常など、神

経の異常を窺わせる症状が認められること。


 ⑵ 治療を続けても症状が改善しないことの確認として、半年以上の治療を経ても症状が改善しないこと。
  治療期間が半年よりも短い場合、「改善の見込みがないとはいえない」との理由により、後遺障害等級に該当しないとされることが多くなります。


 ⑶ 車両同士の事故である場合、車両の損傷が大きいこと(修理費用が高額であること)。
   車両の損傷が大きいほうが、車両ひいては身体に係る衝撃が大きく、身体の損傷もこれに比例するとの考えに基づくものと思われます。


 ⑷ 若年者ではないこと。
   若年者の場合、回復の見込みが大きいとされているようです。

  ただし、後遺障害に該当するとされるかの判断は、あくまで上記の要件を総合的に考慮しての判断であり、単純に上記のいずれかの要件を充たせば認定される、というわけではないことについてもご留意ください。

 

4 終わりに
 頚部や腰部の痛みを理由とする後遺障害の認定について、上記のとおり、様々な要素を勘案して検討されることになります。
 専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
 

自動車賠償責任保険からの支払額が、裁判所の定める金額を上回る場合

カテゴリ: その他

1 私たち弁護士が、相手方保険会社と交通事故の損害賠償について交渉する際、弁護士側は裁判基準(裁判所で一般的とされる損害賠償の基準)によるのに対し、保険会社側は自賠責基準(自動車賠償責任保険における基準)によるのが通常です。
 その理由は、一般的には、裁判基準のほうが高額な賠償額となるためです。

 

2 例えば、事故後1か月間、頸椎捻挫(むち打ち症)の治療のために通院したことに対する慰謝料を算定する場合、裁判基準では19万円が目安となります。
 これに対し、自賠責基準では、1日当たりの金額を4300円とし、これに通院日数の2倍の日数を乗じた金額と、通院期間の日数(1か月通院した場合は、1か月間の日数。ただし、診断書の欄の「中止」に○がついている場合は、)を乗じた金額との、いずれか低い方の金額を支払うこととされています。
 仮に、1か月の間に8日間通院したとした場合は、8日×2倍×4300円=6万8800円となり、裁判基準の方が自賠責基準よりも高額とになります。

 

3 しかし、自賠責基準にて算定した金額のほうが、裁判基準で算定した金額よりも高額となる場合があります。
 これは、次の2点が理由です。
 ⑴ 裁判基準では、双方に過失がある場合は必ず過失相殺(過失の程度に応じた減額)がされるのに対し、自賠責基準の場合は、被害者保護のため、過失割合が7割以上の場合を除き、被害者に過失があっても減額されないこと。
 ⑵ 通院慰謝料の算定方法について、自賠責基準は、通院期間の日数により算定するため、通院日数が多い場合、裁判基準による慰謝料に近づく場合があること。

 

4 具体例により説明します。
  わかりやすくするため、損害の項目は医療費と治療のみとします。
 ⑴ 頸椎捻挫の治療のため、180日(6か月)の間、合計95日通院。
 ⑵ 治療費は60万円、被害者の過失割合は3割(裁判基準の場合、損害合計額の2割が減額される)
 ⑶ 通院日数は95日、通院期間の合計日数は180日(3か月)。
 ⑷ 裁判基準での慰謝料は、89万円となります。
   自賠責基準での慰謝料は、通院日数を2倍した日数は190日となり、通院期間の合計日数である180日を超えるので、自賠責基準による慰謝料は4300円×180日=77万4000円
  ここまでは、裁判基準による慰謝料が、自賠責基準

による慰謝料を上回っています。

 

5 しかし、過失相殺について、裁判基準では必ずされるのに対し、自賠責基準では、上記のとおり、過失割合が7割以上ある場合でないと過失相殺はされないところ、本件は、過失割合は2割にとどまるので、自賠責基準では過失相殺がされない場合に当たります。
 この結果、最終的な賠償額は以下のとおりとなります。
 ⑴ 裁判基準
  (治療費60万円+慰謝料89万円)×0.7(過失相殺)=104万3000円
 ⑵ 自賠責基準
   過失相殺がされないので、治療費60万円+慰謝料77万4000円=137万4000円ですが、けがによる自動車賠償責任保険の上限額は120万円であるため、120万円にとどまります。
   しかし、それでも、裁判基準を上回る金額となります。

 

6 上記のように、過失相殺がされる事案によっては、自動車賠償責任保険からの支払額のほうが、裁判基準による支払額を上回る場合があります。
 過失割合が大きい事案では、相手方に請求するよりも、自動車賠償責任保険からの支払を受けた場合が有利な場合があります。
 ただし、自動車賠償責任保険からの支払を受けるためには、いったん、被害者自らが医療費などの支払をし、その領収書の原本を同保険に提出する必要がある(いったんは被害者自身が支払をする必要がある)ので、注意が必要です。

 

7 これまでにご説明したとおり、請求先や基準が異なることにより、得られる賠償額が異なりますので、もし事故に遭われた場合は、弁護士にご相談されることをお勧めします。
 

ドライブレコーダーの必要性について

カテゴリ: その他

1 ドライブレコーダー(以下「ドラレコ」といいます。)が一般車両に搭載されるようになってから、それなりの期間が経ったためか、ご依頼をいただいた案件の中で、ドラレコの画像を見て検討すべき案件が増えてきた感じがします。
 ただ、カーナビに比べると、まだ普及の割合が低いような感じがします。

 

2 自動車事故における、各当事者の責任を明らかにするためには、なによりも事故の状況をきちんと把握することが必要です。
 ドラレコが搭載される前は、各当事者の供述と、事故現場に残された痕跡(ブレーキ痕など)及び車両の損傷箇所・状況により、事故状況を判断していました。
 このことは、今でも変わらないのですが、供述は、記憶違いや思い込みなどにより正確ではない場合がありますし、現場の痕跡は、これがない場合のほうがむしろ多いです。
 これに対し、ドラレコは、カメラに収まる範囲ではあるものの、事故の一部始終を明らかにしてくれるので、上記の問題を一気に解決してくれる、画期的なものです。

 

3 どのような事故でも、ドラレコの画像の正確性は大変役に立ちますが、その中でも主立ったものをあげるとすれば、やはり交差点内での事故かと思います。
 相互の車両の動きや、信号表示が記録されることで、事故の状況把握に大変役立ちます。
 信号表示については、画像以外の方法により確実な立証をしようとした場合、目撃者の証言に頼るほかありませんが、目撃者がいないことのほうが多いので、ドラレコのあるなしは大きな影響を及ぼします。

 

4 ただ、残念なことに、運転前に、ドラレコの操作方法を確認していなかったため、せっかく事故の状況が録画されたのに、その後にデータが上書きされてしまい、役に立たなかったという事案が何件かありました。
 いざというときのデータの保存方法と取り出し方法は、きちんと確認していただきますよう、お願いします。
 また、画像だけでなく、音も重要です。
 一例として、ウインカーを出しているかどうかにより、事故の責任割合が異なる場合があります。録音がオンとなっていれば、ウインカーの点滅音が記録されるので、ウインカーを出していたことの立証ができますが、オフになっていると、この立証ができなくなってしまいます。
 ドラレコは、録画だけではなく、録音もできる状態で使用してください。

 

5 私たち弁護士としては、事実をきちんと把握した上で、法に従った適切な解決方法を見つけることをモットーにしています。
 ドラレコは、上記のために必要不可欠な機器であることを理解していただけると幸いです。

                                                                            

症状固定日について

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1 症状固定の意味
 症状固定とは,治療を続けても症状の改善が見込まれない状態をいいます。
 一般的には,後遺障害診断書に医師が記載した症状固定日をもって,症状固定日とされますが,裁判等において,相手方がこれと異なる日を主張したり、裁判所が上記記載と異なる判断をすることもあります。

 

2 症状固定日が問題となる理由
 上記のように,症状固定日について争いとなる理由は,交通事故の加害者としては,原則として症状固定日までの医療費を負担すれば足り,同日よりも後の医療費を負担する義務はないことによります。
 症状固定は「治療を続けても症状の改善が見込まれない状態」ですので、この後に医療費を費やしたとしても治療効果は見込めず、そのような無益な費用を加害者(相手方)に負担させるべきではないことによります。
 また,入通院慰謝料についても,事故発生日から症状固定日までの期間を前提に算定することとされているため,より手前の日について症状固定日であるとされたほうが,加害者にとって有利となります。

 

3 どの日を症状固定日とするかについて
 上記のとおり,症状固定とは治療を続けても症状の改善が見込まれない状態をいうことから,症状固定日は,上記状態に達した日,ということになります。
 しかしながら,症例の多くは,徐々に症状の改善が進み,ある一定の時期に,受診を継続するも,改善が見込まれない状態になるという経過をたどります。
 症状固定か否かの判断については,その性質上,これより前の状態と比較しながら判断するしかありません。
 このため,ある日を境として急に症状固定に至るということはまずありませんし,症状固定とするか否かにつき見極めるための一定の期間を要することについても,やむを得ないものと考えます。

 

4 被害者として留意すべきこと
 症状固定の判断に際しては,症状の改善の推移が把握できることが前提となります。
 このため,むやみな転医は避けてください。
 また,頸椎捻挫などのように,外部から症状を把握しづらい症例については,ご自身の症状について,なるべく正確に医師に伝え、これをカルテ(医療記録)に記載しておくことが,症状固定の状態を正確に把握するために必要となります。
 ただ漫然と診察を受け続けるのではなく、ご自身の状態を、医師に伝え記録に残してもらうように心がけてください。
 

事件と弁護士費用

カテゴリ: その他

1 事件解決を弁護士に依頼する際、その費用として真っ先に皆様が思い浮かべるのは、弁護士に対する報酬(以下「弁護士報酬」といいます。)ではないかと思います。
  実際、これから述べる事件解決に必要な費用のうち、弁護士報酬が大きな割合となるのは確かです。

 

2 しかしながら、契約する弁護士や事務所の方針にもよりますが、実際には、事件解決までに、弁護士報酬以外にも、以下のような費用が発生します。
 ⑴ 書類作成、送付に係る費用(コピー代、郵送費用など)
 ⑵ 現場や裁判所などへの移動に際しての交通費、日当
 ⑶ 事故の状況図作成や専門家の意見に基づく文書を作成する際、外部機関(調査会社など)に支払う費用
  上記の費用のうち、⑵及び⑶は、相手方との協議がうまくいかず、裁判所に対する訴えを提起した場合に発生することが多く、逆に話し合いにより解決できるのであれば、⑴のみか、⑶のうち現場確認とその図面作成のための費用(例えば、事故現場において、事故関係者による事故の状況についての説明に基づき、事故の状況図を作成する場合など。事案にもよりますが、数万円程度。)くらいで済みます。
  しかし、裁判となり長期間争われる場合には、裁判の期間に応じて、その費用は増えることとなり(裁判を続けることによる書類の費用や、裁判所への出頭費用が増加するため。)、⑶のうち専門家の意見に基づく文書を作成する場合は、数十万円あるいはそれを超える費用を要する場合があります。
  「裁判には時間とお金がかかる」のは事実であり、これを避けるために、裁判にまで至る前に話し合いによる解決に向けた努力がされるわけです。

 

3 また、一定の結論を得るに当たり、高額であってもその費用の支出が不可欠となる場合があります。
  上記⑶の図面や文書の作成にかかる費用がそれであり、その内容が事件の結論を左右することがあります。
  私が経験した裁判の事例では、通常の玉突き事故(通常は死亡にまで至ることがない事故)であるにもかかわらず、事故の数日後に被害者が死亡したところ、その死因を巡り、事故が原因なのか、それとも被害者の持病である心臓疾患が原因であるのかが争われた事例がありました。
  上記の死亡原因について、地裁は事故が原因であるとしましたが、高裁において、心臓疾患による死亡としても被害者の身体の状況(解剖結果)と矛盾しないとの専門家の意見書を提出したところ、裁判所もこれを認め、最終的な解決となりました。
  この事例では、専門家の意見書が解決に不可欠であったわけですが、そのために高額な費用を要したことも事実であり、当該費用の支出なくしての解決は見込めない事案でした。

 

4 このように、紛争解決までには、弁護士に対する報酬以外にも様々な費用がかかります。
  また、事件解決のためには、弁護士報酬のみならず、上記3のような、専門家への費用支払が必要となる場合もあります。
  事件解決のために一定の費用を要する場合、これを支払うことができない場合は、正しい結論が得られないという事態もあり得ます。(上記3の事例で、専門家の意見書が提出されなかった場合など。)

 

5 そこで、ご加入の保険契約に弁護士費用特約がある場合には、ぜひ加入されることをお勧めします。
  弁護士に依頼する際の費用負担が避けられるだけではなく、事件解決に必要な費用の備えにもなるためです。
  依頼を受ける弁護士の立場としても、事件解決に必要な費用が工面できず、本来得られるべき結論が得られないような事態は、できれば避けたいものです。
  「適切な解決を得るための備え」として、弁護士費用特約への加入をご検討いただければと考えます。

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