交通事故
後遺障害認定のしくみについて
1 はじめに
交通事故により、治療にもかかわらず後遺障害が残った場合、これが所定の後遺障害に該当するかにつき、認定することが必要となります。
この認定のしくみについて、お知らせします。
2 自賠責保険会社と調査事務所との関係
後遺障害の認定を求める場合、自動車保険を取り扱う保険会社に対し、後遺障害認定に必要な書類(後遺障害診断書など)を提出し、後遺障害として認定するよう求めることになります。
しかし、認定をするのは、各保険会社ではなく、保険会社とは別の、各都道府県に設けられた調査事務所となります。
後遺障害が認定されると、保険会社は、認定に応じた保険金を支払う義務が生じます。
なるべく保険金の支払を抑え、収益の悪化を避けたい保険会社が認定に関わったのでは、中立・公正な判断をすることができません。
このため、保険会社とは別の期間である、調査事務所が調査・認定をすることになっています。
3 調査事務所による調査内容
調査内容は、後遺障害診断書に記載された後遺障害の内容により異なります。
最も申請件数が多いと思われる、頸椎捻挫・腰椎捻挫の場合ですと、申請時にレントゲン・MRIなどの画像検査の資料を添付しなかった場合は、調査事務所より、資料の送付が依頼されます。
画像は、調査事務所からの依頼を受けた医師による検討が行われます。
また、資料取得のため医療機関に支払った費用は、調査事務所への資料送付後、調査事務所から費用相当分が支払われます。(申請時に画像資料を一緒に送った場合は、費用の支払いはありません。)
さらに、事案に応じて、調査事務所から医療機関に対し、被害者の症状の推移や医師の見解を尋ねる文書(医療照会)が送付され、この回答を踏まえ、後遺障害として認定するかの検討が行われます。
4 異議申し立てをした場合
初回の申請にて、後遺障害が認定されなかった場合、これに対する異議申立てをすることができます。
この場合は、調査事務所ではなく、さらに上部の組織である、地区本部あるいはさらに上の本部にて検討が行われます。
5 まとめ
後遺障害の認定に当たっては、認定の公正を確保するための対応がされているということができます。
ただし、申請に当たっては、法的・医学的な難しい問題が生じることもありますので、専門家である弁護士にご相談ください。
民事執行法の改正と債権回収について
1 はじめに
強制執行をする場合、これまでは、債権者が何らかの方法により債務者の財産を探して特定し、これに対する強制執行を裁判所に申し立てる必要がありました。
これに対し、民事執行法が改正されたことにおり、債務者の財産を調査する(探す)ための制度が設けられました。(以下「財産調査制度」といいます。)
しかし、実際には、簡単に債務者の財産を見つけることができる制度というわけではないようです。
2 財産調査制度開始のための要件
強制執行を実施したが完全な弁済を得ることができなかったとき、または債権者が把握している債務者の財産に強制執行をしても完全な弁済を得られないことを疎明したとき(疎明とは、証明のような確かさまでは必要ないが、一応、確からしいと思われる状態であることを示したとき。)のいずれかの要件を備える必要があります。
後者については、債務者以外の者が一般的に調査可能な範囲での調査をしたが、債権回収のための財産が見当たらないことを示す必要があります。
このため、最低限、債務者の居住地の不動産が債務者の所有でないことについて、公開情報である登記を取得して確認するなどの作業をすることが求められます。
また、財産開示手続を実施するためには、判決や公正証書など、強制執行をするための特定の書類が必要となります。
財産開示手続は、強制執行を実施するための準備としての制度であるため、上記の書類がなく、強制執行をすることができない者については、財産開示の申立てをすることができないためです。
3 財産開示手続を先行すべきことについて
財産調査制度により調査を行うに際し、不動産と勤務先の情報を得るためには、過去3年以内に財産開示が実施されていることが要件となっています。
このため、実施されていない場合は、調査の前に、財産開示の手続実施を裁判所に求める必要があります。
これに対し、預貯金の調査については、財産開示手続が実施されたことは不要ですが、各金融機関ごとに個別に照会する必要があります。
現在では、ネット銀行なども複数あり、債務者が居住地の近くの金融機関に預金しているとは限らないため、債務者の預貯金がある金融機関を見つけることは、容易ではありません。
また、見つけることができたとしても、預金額が少ないため強制執行に適さないということもあり得ます。
4 財産開示手続の実施
裁判所が財産開示手続の実施を決定すると、債務者は所持している財産の一覧を作成して提出し、裁判所が指定した期日(裁判所内で手続が行われる日)に出頭する義務が生じます。
しかし、財産を開示するかどうか、どの範囲で開示するかについては、債務者に委ねられています。
事実と異なる開示がされた場合、刑罰に処せられることとなりましたが、依然として、正しく開示されるかどうかは、債務者次第という状況に変わりはありません。
5 債務者が行方不明などの場合
財産開示手続を含め、裁判所の手続は、送達といいますが、書類を相手方に送付する手続をする必要があります。
債務者が受け取らなかったり、行方不明で送達先が不明な場合でも、送達をしたのと同様に扱う制度が設けられています。
そして、上記の場合、債務者がいない状態で財産開示の期日が開かれるため、形式上は、不動産や勤務先に関しての財産調査制度を利用するための財産開示は実施されたものとして、次の財産調査制度の手続に進むことができます。
しかし、財産開示制度が、債権者により財産を明らかにしてもらい、これに基づいて強制執行をするための制度であることからすれば、債務者が出頭しないことにより、財産開示制度の効用が損なわれることは否めません。
6 財産調査制度の効用
財産調査制度は、あくまで財産に関する情報を得るための制度であり、強制執行をして債権回収をすることを保証するものではありません。
そして、債権回収ができない理由の多くが、債務者による財産隠しではなく、債務者自身に財産がないことであることからすれば、調査制度が設けられたことで、より容易に強制執行をすることができるよになった、とはいえないのが実情です。
また、個人情報の保護のためであるとはいえ、財産開示手続を先行させるとしたことにより、強制執行までのハードルが高くなっています。
7 終わりに
財産調査制度及び財産開示手続については、いろいろ難しい問題があるため、専門家である弁護士にご相談ください。
自動車賠償責任保険からの支払額を増やす方法
1 はじめに
法律で加入することが義務づけられている自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)より、事故の被害者に対して支払われる金額は、多くの場合、弁護士が関与して保険会社と示談する場合の金額や、裁判で支払を命じられる金額よりも低いことが多いのが実情です。
しかし、裁判において、自賠責保険の保険会社を被告として自賠責保険からの支払を求めることにより、一般的な自賠責保険の金額よりも高い金額が、保険会社より支払われることがあります。
2 自賠責保険からの支払金額が低額となる理由
自賠責保険と、弁護士が関与して示談する場合や裁判の場合の金額とで大きく異なるのは、多くの場合、入通院に対する慰謝料の金額となります。
自賠責保険は、事故日から治療終了日(終了日において「(治療の)中止」とされた場合は、終了日より7日後の日)までの日数と、同期間の通院日数を2倍した日数を比較して、低い方の日数に、4300円を乗じた金額を入通院に対する慰謝料として支払います。
例えば、1月1日に事故に遭い、2月28日に治癒とされ、その間、合計20日間通院した場合、期間の59日よりも、通院日数20日×2=40日のほうが少ないので、この場合の自賠責保険における入通院慰謝料は、4300円×40日=17万2000円となります。
これに対し、弁護士が関与しての示談や、裁判所の判決は、通院日数ではなく通院期間に基づいて慰謝料額を算定します。
交通事故の一般的なけがである、頸椎捻挫や腰椎捻挫の治療のために1か月通院した場合の慰謝料の基準額は、裁判の場合が36万円、示談の場合がこの8割程度の28万8000円程度となることが多いので、自賠責保険よりも高い慰謝料額が支払われることになります。
3 自賠責保険の慰謝料額を増額する方法
最高裁の判例において、裁判(訴訟)において自賠責保険の保険会社に対し、事故による損害額の支払を求めた場合には、上記自賠責保険の算定基準ではなく、裁判での基準と同じ算定方法によるべきとされています。
このため、裁判で自賠責保険の保険会社に対し慰謝料の支払を求めた場合には、上記の17万2000円ではなく、36万円が支払われることになります。
4 注意事項
ただし、裁判を通じて自賠責保険の保険会社に支払を求める場合、注意すべきことが2つあります。
1つめは、過失相殺による減額です。
自賠責保険の場合、被害者の過失割合が7割より小さければ、過失相殺はされず、過失割合が7割とされた場合でも、自賠責保険の基準の2割の減額にとどまるのに対し、裁判での基準では、過失割合が少しでもあれば、その分、過失相殺により減額されることになります。(なお、後遺障害に対する自賠責保険からの支払については、2割よりも高い割合で減額されることがあります。)
このため、上記の自賠責保険の慰謝料が17万2000円、裁判での慰謝料が36万円での事例において、被害者の過失割合が7割とされた場合、
自賠責保険:17万2000円×8割(2割減)=13万7600円
裁判:36万円×3割(7割減)=10万8000円
となり、裁判での支払額ではなく、自賠責保険からの支払額のほうが多くなります。
この場合は、裁判をすることは、かえって不利益になります。
2つめは、けがによる自賠責保険の保険金支払の上限が120万円とされていることです。
このため、治療費や休業損害など、慰謝料以外の項目の金額が多額となる事案では、裁判を通じて請求したとしても、裁判での基準の慰謝料額を受領できない場合があります。
例えば、治療費その他の慰謝料以外の費用が100万円となり、これが先に自賠責保険より支払われた場合、自賠責保険からの慰謝料額の支払は、過失割合がない場合でも、120万円-100万円=20万円が上限となります。
5 おわりに
裁判を通じて自賠責保険の保険会社に対し支払を求める場合、裁判の手続自体が難しいことのほかに、上記の注意事項にてご説明したとおり、事案によってはかえって不利になる場合もあります。
専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
裁判の限界について
1 はじめに
相手方が賠償に応じないため、裁判所に訴訟を提起し、勝訴の判決が出たにもかかわらず、相手方からの支払を受けることができない場合があります。
2 判決の効力
判決は、相手方に支払義務があることの確認にすぎず、判決を得ただけでは相手方から金銭を取り立てることはできません。
判決を得た後に、これを踏まえて相手方が任意に支払ってくれればよいのですが、支払ってくれない場合には、相手方の給与を差し押さえるなどの、強制執行と呼ばれる手続きを別途行う必要があります。
3 相手方に差し押さえるべき財産が無い場合
相手方に差し押さえるべき財産がなかったり、差し押さえるべき財産を見つけることができなければ、強制執行をすることができなかったり、強制執行に着手したとしても何も得ることができないことになります。(後者の例として、預貯金の差押えを行ったが、口座の残高が0円であった場合など)
4 自動車事故の場合
自動車事故の場合は、自動車賠償責任保険への加入が法律で義務づけられており、多くのドライバーは、これに加えて任意保険にも加入していることが一般的です。
判決を得ることにより、保険契約に定められた保険金の範囲で、保険会社から賠償金が支払われます。(保険会社が支払をしないと、保険契約に反してしてしまうことになるため)
相手方が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合でも、政府が加害者の代わりに、自賠責保険が支払うべき分を支払ってくれる制度(政府保障事業)があります。
しかし、物損(車両その他の物品の破損による損害)については、保険制度としては任意保険しかないため、相手方が任意保険に加入しておらず、資力を欠く場合には、「判決を得ても支払ってもらうことができない」状態になる可能性が高くなります。
5 人身傷害保険・車両保険による備え
自動車事故に遭ったが、相手方が無資力だったという場合に備えるためには、人身傷害保険(けが・死亡に対する保険)と車両保険(物損に対する保険)に加入することになります。
これらの保険に加入しておけば、治療費や修理費を保険会社が支払ってくれるため、相手方が無資力であっても必要な費用をまかなうことができます。
車両保険は、人身傷害保険や弁護士費用特約に比べ保険料が割高なため、加入率が低くなっていますが、判決を得るだけでは無資力の問題は解決しないので、いざというときの備えのために、加入されることをお勧めします。
6 弁護士費用特約について
弁護士費用特約は、弁護士に依頼する際の費用について補償するためのものです。
弁護士に依頼し、裁判で勝訴したとしても、相手方が無資力であれば何も回収することはできません。
相手方の無資力に対する備えとしては、人身傷害保険・車両保険への加入が必要ということになります。
示談について
1 はじめに
示談とは、双方の合意に基づき紛争を解決することを意味します。
また、解決に至るまでの交渉(やりとり)も含めて「示談」といわれることがあります。
2 示談のメリットとデメリット
示談のメリットは、解決に至るまでの費用と時間を節約することができることです。
実際のところ、紛争の多くは示談により解決されていることが多いのですが、これは、裁判に比べると、明らかに、解決までの時間と費用を削減することおができるためです。
これに対し、示談のデメリットは、双方が合意しない限り示談も成立しないため、解決することができず、紛争が宙ぶらりんとなってしまうことです。
このような場合は、示談での解決を諦め、当事者の意向にかかわらず一定の判断がされる裁判にて解決することになります。
3 示談の際の留意点
⑴ 当然のことですが、話し合いによる解決だからといっても、根拠のない主張や請求に対し、相手方がこれに応じることは通常ありません。
証拠や根拠について、きちんと確認・検討する必要があります。
また、逆に、相手方の誤った主張などに応じることがないようにすべきです。
⑵ 示談による合意は、双方が話し合いで解決することに利点を見出すことで可能になります。
交通事故などの賠償請求についての示談であれば、多くの場合、請求する側は、裁判と比べ賠償金支払までの時間や労力が低減されることについて利点を見出すのに対し、賠償する側としては、裁判により命じられることが予想される支払金額よりも低い金額の支払で済むことに利点を見出すのが通常です。
このため、裁判と全く同じ金額での示談の成立は、通常ありません。
⑶ 1年の区切りである12月と、年度の区切りである3月においては、他の時期と比べ、示談が成立しやすいと言われています。
話し合いの山場がこの時期にさしかかったら、精力的に示談を進めてみるのも一案です。
4 おわりに
話し合いによる解決といっても、根拠に基づいた解決を目指すことに変わりはなく、専門的な知識が必要となることが多いです。
専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。