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法廷での尋問の際の心得

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1 最近、芸能人が当事者となった東京地裁での訴訟事件について、尋問の際の同人の法廷での言動(わざと本名と異なる名前を言うなどしたこと)が報道されています。
  報道によると、その芸能人は、受けを狙って上記の言動に及んだとのことですが、いうまでもなく、裁判は厳粛であることを前提としていますので、そのような行為はすべきではありません。

 

2 法廷での尋問は、一般の方にとっては一生に一度あるかないかの出来事ではないかと思います。
  もっとも、ご自身が犯罪を犯したような場合だけではなく、不幸にして事故の被害者となり、その裁判の中で、事故の状況について尋問されるといった場合もありますので、どなたにも、尋問の機会が訪れる可能性はあります。

 

3 尋問されることとなった場合、以下の点に留意されるとよいと思います。
(1)服装について、必ずしもスーツなどの正装である必要はありませんが、公の場ですので、肌の露出が多い服装や、清潔感を欠く服装などは避けてください。


(2)お答えの内容は、あくまでご自身の記憶のとおりに答えるようにしてください。
   記憶と違うことをわざと言ってしまうと、偽証罪などに問われ、刑罰などの制裁を受けることになってしまう可能性があります。
   もっとも、「記憶のとおり」の回答であれば、これが実際の事実とは異なっていても、責任を問われることはありません。
   もともと、人が全てを完全に記憶することなどできるはずもなく、全て事実どおりの回答を求めることは、不可能を強いることに他ならないためです。
   また、尋問という制度自体が、あくまで証人らの記憶を確認することを目的とする制度であることも、記憶のとおり述べることでよいとされる理由です。

 

(3)お答えは、質問者の質問が終わってから答えるようにし、質問の途中で答えることは避けるようにしてください。
   途中で回答すると、質問者の発言と、証人ら自身の発言とが重なってしまい、正しく聞き取ったり、録音することができません。


(4)尋ねられたこと以外の事項は、お答えにならないようにしてください。
   尋問の場は、あくまで質問を受ける場であり、ご自身の意見を述べる場ではないためです。
   また、尋ねられたこと以外のことについて発言することにより、かえって不利な状況となってしまうことが、しばしば見受けられます。

 

4 尋問の際は、大変緊張されるかと思いますが、上記の留意点を踏まえ、あくまで「記憶のとおりに述べること」「尋ねられたことだけ答えること」に徹していただけたらと思います。
 

裁判に現れる事実について

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1 裁判についての報道は毎日のようにされています。
  多くの方は,その内容が,そのまま事実であると考えてしまうと思います。

2 しかしながら,弁護士のみならず裁判官として実際に裁判に関わった経験からすれば,全ての事実が裁判(判決)に盛り込まれるわけではありません。
  膨大な数の事実の中から,一定の結論(判決)をするのに必要な事実だけが裁判所(裁判官)により抽出され,これが判決という形で結実します。
  「判決をする」こととは,判決をするのに必要な事実を抽出し,組み立てることに他なりません。
  また,判決をするのに必要な事実の収集は,原告あるいは被告とされた本人や,検察官・弁護士といった,裁判所以外の者が行うこととされています。
  複数の人が事実の収集や組み立てに関わることで,多数の事実が集まり,裁判の結論について様々な方向から検討することができる一方で,事実の収集に漏れがあったり,必要な事実かどうかの判断を誤るなどした結果,重要な事実がありながらこれが埋もれてしまったり,あるべき結論と異なる結論となる可能性があることも,また実際に生じていることなのです。
  事実を明らかにする,ということは,大変な労力を要する作業である一方で,判決は,決して,全部の事実を明らかにしたものではないのです。

3 昨今,ツイッターへの投稿を理由に,裁判官が戒告処分となったとの報道がありました。
  上記のとおり,裁判に現れた事実が全ての事実ではない以上,一部の事実のみを取り上げ,強調することは望ましいことではないと考えています。
  一見,不合理に見える事実でも,その背景に,表に現れない,何らかの事実(事情)があるかもしれないためです。
 

物損事故から人身事故への切り替えについて

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1 電話相談にて,昨今,物損事故(車両等の損傷のみで,人のけがや死亡はない事故)から人身事故(けがや死亡が発生した事故)への切り替えについてのお問い合わせを受けることがあります。

 

2 物損事故の場合,刑罰に処せられることはありません。

 刑法には器物損壊罪という罪がありますが,これは故意に(わざと)他人の物を壊した場合にのみ適用され,一般的な交通事故のように,故意ではなく誤って壊した場合は処罰の対象外とされているためです。

 一方,けがや死亡を伴う事故(人損事故)については,自動車運転過失傷害罪や過失致死罪が定められており,故意はなくとも過失(一定の注意を払えば事故を防ぐことができたにもかかわらず,これを怠ったこと)があると認められれば,刑罰に処せられる旨定められています(ただし,実際に刑罰に処せられるかどうかは,最終的には裁判所の判断となります。)。

 このため,物損事故と人身事故とでは,刑罰に処せられる可能性の有無という点で,大きな違いがあります。

 事故の相手方が処罰される可能性を考慮して,あえて人身事故としての届出をしないと言う方が時々いらっしゃいます。

 

3 人身事故として届け出ることの利点

 もっとも,以下の理由により,人身事故としての届出をしたほうが望ましいといえます。

(1) 自動車賠償責任保険の保険金請求におけるメリット

 強制加入保険である自動車賠償責任保険は,人身事故による被害のみを対象とした保険です。

 そのため,人身事故としての届出がされていれば,問題なく保険金の支払を受けることができますが,届出をしていない場合は,保険金の支払請求に際し,対象事故が人身事故であることの証明及び警察に届出をしなかった理由についての説明を求められ,手続きが煩雑となります。

(2) 事故状況についての証拠が残ること

 事故の態様を巡り,事故当事者の双方の言い分が異なることがあり,どちらの言い分が正しいかにより,過失割合(事故に対する双方の責任の割合)ひいては相手に請求できる賠償の額が異なる場合があります。

 人身事故としての届出がされれば,警察及び事故当事者による事故状況の確認(実況見分調書の作成)及び事故関係者に対する事情聴取や供述調書の作成が行われることにより,後に事故態様について争いが生じた場合,これらによる確認が可能となります(ただし,供述調書については,開示されない場合があります。)。

 一方,人身事故としての届出をしない場合,警察による捜査は行われないため,実況見分調書や供述調書は作成されません。

 事故後に,実況見分調書や供述調書に代わる書面を作成することができないわけではありませんが,事故発生日から時間が経過するにつれ,双方の記憶が曖昧になるなどして,正確な証拠とすることが難しくなることが多いです。

 

4 人身事故としての届出の有無が,後の賠償請求に大きな影響を及ぼすことがあります。

 人身事故としての届出をすべきかどうかお悩みの際は,当事務所の弁護士までご相談ください。

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