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民事執行法の改正と債権回収について
1 はじめに
強制執行をする場合、これまでは、債権者が何らかの方法により債務者の財産を探して特定し、これに対する強制執行を裁判所に申し立てる必要がありました。
これに対し、民事執行法が改正されたことにおり、債務者の財産を調査する(探す)ための制度が設けられました。(以下「財産調査制度」といいます。)
しかし、実際には、簡単に債務者の財産を見つけることができる制度というわけではないようです。
2 財産調査制度開始のための要件
強制執行を実施したが完全な弁済を得ることができなかったとき、または債権者が把握している債務者の財産に強制執行をしても完全な弁済を得られないことを疎明したとき(疎明とは、証明のような確かさまでは必要ないが、一応、確からしいと思われる状態であることを示したとき。)のいずれかの要件を備える必要があります。
後者については、債務者以外の者が一般的に調査可能な範囲での調査をしたが、債権回収のための財産が見当たらないことを示す必要があります。
このため、最低限、債務者の居住地の不動産が債務者の所有でないことについて、公開情報である登記を取得して確認するなどの作業をすることが求められます。
また、財産開示手続を実施するためには、判決や公正証書など、強制執行をするための特定の書類が必要となります。
財産開示手続は、強制執行を実施するための準備としての制度であるため、上記の書類がなく、強制執行をすることができない者については、財産開示の申立てをすることができないためです。
3 財産開示手続を先行すべきことについて
財産調査制度により調査を行うに際し、不動産と勤務先の情報を得るためには、過去3年以内に財産開示が実施されていることが要件となっています。
このため、実施されていない場合は、調査の前に、財産開示の手続実施を裁判所に求める必要があります。
これに対し、預貯金の調査については、財産開示手続が実施されたことは不要ですが、各金融機関ごとに個別に照会する必要があります。
現在では、ネット銀行なども複数あり、債務者が居住地の近くの金融機関に預金しているとは限らないため、債務者の預貯金がある金融機関を見つけることは、容易ではありません。
また、見つけることができたとしても、預金額が少ないため強制執行に適さないということもあり得ます。
4 財産開示手続の実施
裁判所が財産開示手続の実施を決定すると、債務者は所持している財産の一覧を作成して提出し、裁判所が指定した期日(裁判所内で手続が行われる日)に出頭する義務が生じます。
しかし、財産を開示するかどうか、どの範囲で開示するかについては、債務者に委ねられています。
事実と異なる開示がされた場合、刑罰に処せられることとなりましたが、依然として、正しく開示されるかどうかは、債務者次第という状況に変わりはありません。
5 債務者が行方不明などの場合
財産開示手続を含め、裁判所の手続は、送達といいますが、書類を相手方に送付する手続をする必要があります。
債務者が受け取らなかったり、行方不明で送達先が不明な場合でも、送達をしたのと同様に扱う制度が設けられています。
そして、上記の場合、債務者がいない状態で財産開示の期日が開かれるため、形式上は、不動産や勤務先に関しての財産調査制度を利用するための財産開示は実施されたものとして、次の財産調査制度の手続に進むことができます。
しかし、財産開示制度が、債権者により財産を明らかにしてもらい、これに基づいて強制執行をするための制度であることからすれば、債務者が出頭しないことにより、財産開示制度の効用が損なわれることは否めません。
6 財産調査制度の効用
財産調査制度は、あくまで財産に関する情報を得るための制度であり、強制執行をして債権回収をすることを保証するものではありません。
そして、債権回収ができない理由の多くが、債務者による財産隠しではなく、債務者自身に財産がないことであることからすれば、調査制度が設けられたことで、より容易に強制執行をすることができるよになった、とはいえないのが実情です。
また、個人情報の保護のためであるとはいえ、財産開示手続を先行させるとしたことにより、強制執行までのハードルが高くなっています。
7 終わりに
財産調査制度及び財産開示手続については、いろいろ難しい問題があるため、専門家である弁護士にご相談ください。
自動車賠償責任保険からの支払額を増やす方法
1 はじめに
法律で加入することが義務づけられている自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)より、事故の被害者に対して支払われる金額は、多くの場合、弁護士が関与して保険会社と示談する場合の金額や、裁判で支払を命じられる金額よりも低いことが多いのが実情です。
しかし、裁判において、自賠責保険の保険会社を被告として自賠責保険からの支払を求めることにより、一般的な自賠責保険の金額よりも高い金額が、保険会社より支払われることがあります。
2 自賠責保険からの支払金額が低額となる理由
自賠責保険と、弁護士が関与して示談する場合や裁判の場合の金額とで大きく異なるのは、多くの場合、入通院に対する慰謝料の金額となります。
自賠責保険は、事故日から治療終了日(終了日において「(治療の)中止」とされた場合は、終了日より7日後の日)までの日数と、同期間の通院日数を2倍した日数を比較して、低い方の日数に、4300円を乗じた金額を入通院に対する慰謝料として支払います。
例えば、1月1日に事故に遭い、2月28日に治癒とされ、その間、合計20日間通院した場合、期間の59日よりも、通院日数20日×2=40日のほうが少ないので、この場合の自賠責保険における入通院慰謝料は、4300円×40日=17万2000円となります。
これに対し、弁護士が関与しての示談や、裁判所の判決は、通院日数ではなく通院期間に基づいて慰謝料額を算定します。
交通事故の一般的なけがである、頸椎捻挫や腰椎捻挫の治療のために1か月通院した場合の慰謝料の基準額は、裁判の場合が36万円、示談の場合がこの8割程度の28万8000円程度となることが多いので、自賠責保険よりも高い慰謝料額が支払われることになります。
3 自賠責保険の慰謝料額を増額する方法
最高裁の判例において、裁判(訴訟)において自賠責保険の保険会社に対し、事故による損害額の支払を求めた場合には、上記自賠責保険の算定基準ではなく、裁判での基準と同じ算定方法によるべきとされています。
このため、裁判で自賠責保険の保険会社に対し慰謝料の支払を求めた場合には、上記の17万2000円ではなく、36万円が支払われることになります。
4 注意事項
ただし、裁判を通じて自賠責保険の保険会社に支払を求める場合、注意すべきことが2つあります。
1つめは、過失相殺による減額です。
自賠責保険の場合、被害者の過失割合が7割より小さければ、過失相殺はされず、過失割合が7割とされた場合でも、自賠責保険の基準の2割の減額にとどまるのに対し、裁判での基準では、過失割合が少しでもあれば、その分、過失相殺により減額されることになります。(なお、後遺障害に対する自賠責保険からの支払については、2割よりも高い割合で減額されることがあります。)
このため、上記の自賠責保険の慰謝料が17万2000円、裁判での慰謝料が36万円での事例において、被害者の過失割合が7割とされた場合、
自賠責保険:17万2000円×8割(2割減)=13万7600円
裁判:36万円×3割(7割減)=10万8000円
となり、裁判での支払額ではなく、自賠責保険からの支払額のほうが多くなります。
この場合は、裁判をすることは、かえって不利益になります。
2つめは、けがによる自賠責保険の保険金支払の上限が120万円とされていることです。
このため、治療費や休業損害など、慰謝料以外の項目の金額が多額となる事案では、裁判を通じて請求したとしても、裁判での基準の慰謝料額を受領できない場合があります。
例えば、治療費その他の慰謝料以外の費用が100万円となり、これが先に自賠責保険より支払われた場合、自賠責保険からの慰謝料額の支払は、過失割合がない場合でも、120万円-100万円=20万円が上限となります。
5 おわりに
裁判を通じて自賠責保険の保険会社に対し支払を求める場合、裁判の手続自体が難しいことのほかに、上記の注意事項にてご説明したとおり、事案によってはかえって不利になる場合もあります。
専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
給与差押えについて
1 はじめに
相手方が賠償に応じないため、裁判所に訴訟を提起し、勝訴の判決が出たにもかかわらず、相手方からの支払を受けることができない場合があります。
このような場合、相手の給与を差し押さえる方法があります。
2 差押えに必要な書類
給与の差押えを求める場合、申立書のほかに、差押えの根拠となる文書を提出する必要があります。
判決が代表的なものですが、判決以外にも、公正証書や和解調書など、根拠となる文書は複数あり、これら、差押えの根拠となる文書をまとめて「債務名義」と呼んでます。
今回の差押えは、相手方に対し賠償金の支払を命じる判決に基づくものでしたが、判決に基づき差し押さえる場合、執行文といって、「この判決に基づき執行することができる」旨記載された文書を申請し、添付してもらう必要があります。
また、判決が相手方に送達されたことの証明書も必要となります。
3 差し押さえた給与の取得
給与差押えの申立てについて、裁判所がこれを認めると、差押命令が、勤務先と債務者本人に送達されます。
送達から一定期間が経過すると、勤務先から差し押さえた給与を支払ってもらうことができ、これを相手方から支払ってもらうべき金銭に充てることになります。
ただし、多くの場合、給与全てを差押えることはできず、支払給与合計から、税金や社会保険料を控除した金額の4分の1を差し押さえることができるにとどまります。
月々の給与全部を差し押さえたのでは、生活することができなくなってしまうためです。
このため、給与差押えが認められても、判決などで請求できる金額全てが支払われるまでに、一定の時間がかかることになります。
また、他にも給与差押えを求めた債権者がいる場合、上記4分の1の給与を債権者どうしで分けることになるため、さらに時間がかかることになります。
4 給与差押えの制限・限界
上記のとおり、給与差押えの場合、差し押さえることができる範囲に制限がありますが、もう一つ大きな問題があります。
それは、債権回収が終わる前に債務者が退職してしまうと、以後の支払を受けることができなくなってしまうことです。
退職してしまった場合、退職までの給与が支払われた時点で、差押え手続も終了となってしまいます。
5 おわりに
給与差押えを行うには、上記以外にも様々な書類が必要となります。
裁判所のホームページにも記載されていますが、ご不明な点があれば、弁護士にお尋ねください。
裁判の限界について
1 はじめに
相手方が賠償に応じないため、裁判所に訴訟を提起し、勝訴の判決が出たにもかかわらず、相手方からの支払を受けることができない場合があります。
2 判決の効力
判決は、相手方に支払義務があることの確認にすぎず、判決を得ただけでは相手方から金銭を取り立てることはできません。
判決を得た後に、これを踏まえて相手方が任意に支払ってくれればよいのですが、支払ってくれない場合には、相手方の給与を差し押さえるなどの、強制執行と呼ばれる手続きを別途行う必要があります。
3 相手方に差し押さえるべき財産が無い場合
相手方に差し押さえるべき財産がなかったり、差し押さえるべき財産を見つけることができなければ、強制執行をすることができなかったり、強制執行に着手したとしても何も得ることができないことになります。(後者の例として、預貯金の差押えを行ったが、口座の残高が0円であった場合など)
4 自動車事故の場合
自動車事故の場合は、自動車賠償責任保険への加入が法律で義務づけられており、多くのドライバーは、これに加えて任意保険にも加入していることが一般的です。
判決を得ることにより、保険契約に定められた保険金の範囲で、保険会社から賠償金が支払われます。(保険会社が支払をしないと、保険契約に反してしてしまうことになるため)
相手方が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合でも、政府が加害者の代わりに、自賠責保険が支払うべき分を支払ってくれる制度(政府保障事業)があります。
しかし、物損(車両その他の物品の破損による損害)については、保険制度としては任意保険しかないため、相手方が任意保険に加入しておらず、資力を欠く場合には、「判決を得ても支払ってもらうことができない」状態になる可能性が高くなります。
5 人身傷害保険・車両保険による備え
自動車事故に遭ったが、相手方が無資力だったという場合に備えるためには、人身傷害保険(けが・死亡に対する保険)と車両保険(物損に対する保険)に加入することになります。
これらの保険に加入しておけば、治療費や修理費を保険会社が支払ってくれるため、相手方が無資力であっても必要な費用をまかなうことができます。
車両保険は、人身傷害保険や弁護士費用特約に比べ保険料が割高なため、加入率が低くなっていますが、判決を得るだけでは無資力の問題は解決しないので、いざというときの備えのために、加入されることをお勧めします。
6 弁護士費用特約について
弁護士費用特約は、弁護士に依頼する際の費用について補償するためのものです。
弁護士に依頼し、裁判で勝訴したとしても、相手方が無資力であれば何も回収することはできません。
相手方の無資力に対する備えとしては、人身傷害保険・車両保険への加入が必要ということになります。
示談について
1 はじめに
示談とは、双方の合意に基づき紛争を解決することを意味します。
また、解決に至るまでの交渉(やりとり)も含めて「示談」といわれることがあります。
2 示談のメリットとデメリット
示談のメリットは、解決に至るまでの費用と時間を節約することができることです。
実際のところ、紛争の多くは示談により解決されていることが多いのですが、これは、裁判に比べると、明らかに、解決までの時間と費用を削減することおができるためです。
これに対し、示談のデメリットは、双方が合意しない限り示談も成立しないため、解決することができず、紛争が宙ぶらりんとなってしまうことです。
このような場合は、示談での解決を諦め、当事者の意向にかかわらず一定の判断がされる裁判にて解決することになります。
3 示談の際の留意点
⑴ 当然のことですが、話し合いによる解決だからといっても、根拠のない主張や請求に対し、相手方がこれに応じることは通常ありません。
証拠や根拠について、きちんと確認・検討する必要があります。
また、逆に、相手方の誤った主張などに応じることがないようにすべきです。
⑵ 示談による合意は、双方が話し合いで解決することに利点を見出すことで可能になります。
交通事故などの賠償請求についての示談であれば、多くの場合、請求する側は、裁判と比べ賠償金支払までの時間や労力が低減されることについて利点を見出すのに対し、賠償する側としては、裁判により命じられることが予想される支払金額よりも低い金額の支払で済むことに利点を見出すのが通常です。
このため、裁判と全く同じ金額での示談の成立は、通常ありません。
⑶ 1年の区切りである12月と、年度の区切りである3月においては、他の時期と比べ、示談が成立しやすいと言われています。
話し合いの山場がこの時期にさしかかったら、精力的に示談を進めてみるのも一案です。
4 おわりに
話し合いによる解決といっても、根拠に基づいた解決を目指すことに変わりはなく、専門的な知識が必要となることが多いです。
専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
事故発生から初診までの間隔が空いてしまうことの問題点について
1 はじめに
私が在籍している弁護士事務所では、交通事故の案件を多く依頼いただいていますが、その中に、事故発生日から最初の受診日までの間隔が空いてしまったり、後遺障害と思われる症状が、事故日から一定の期間をおいて発生したとされる事案に当たることがあります。
このような場合、「被害者の症状が、事故により生じたものであるか」という問題が生じることがあります。
2 間隔が空いてしまうことによる問題点
「交通事故によりけがをしたこと」を理由に損害賠償請求をする場合、当然のことではありますが、「事故によりけがをした」ことの立証が必要です。
事故との間隔が空いてしまうと、「事故以外の他の原因で発症したのではないか」との疑念を持たれてしまうことになります。
頸椎捻挫や腰椎捻挫は、事故直後に直ちに発症するのではなく、しばらく時間をおいてから痛みを感じることが多いですが、事故日との間隔が空けば空くほど、疑念を持たれてしまうことになります。
そのような事態を避けるためには、事故後、身体の異常を感じたら、なるべく早めに受診することが大切です。
3 後遺障害の認定における問題
後遺障害の認定に当たっては、事故後の症状が、後遺障害の認定要件に当てはまるかどうかが問題となることが多いですが、その前に、症状が事故により発生したかどうかが問題となることがあります。
この場合も、事故と症状発生との間隔が問題とされることがあります。
一例として、脊髄の損傷が確認され、これにより、手で持った物を頻繁に落としてしまうような状態になったことについて、後遺障害の認定を申請したところ、医療機関の診断書などには、上記の症状がないとされていることを理由に、後遺障害が認定されなかった事例がありました。
4 まとめ
これまでお伝えしたように、事故発生日と、症状が発生した時期とが離れていることにより、必要な賠償が受けられないことがあります。
このため、事故後異常を感じたら、なるべく早く受診し、症状をきちんと伝えることが大切です。
裁判所での審理よりも交通事故紛争処理センターでの審理のほうが被害者に有利に働く場合
1 はじめに
今般、裁判所に訴えを提起するのではなく、交通事故紛争処理センターでの審理を選んだ結果、被害者にとって有利な解決となった事例についてお知らせします。
2 交通事故紛争処理センターの特徴
交通事故紛争処理センターは、主に交通事故の被害者と、相手方加害者が契約する保険会社との間で、交通事故による損害賠償について争いとなった場合、その解決に当たる機関です。
裁判の場合、訴え提起の際に請求額に応じた印紙を納付する必要がありますが、センターでは、無料で審理がされます。
また、人損(被害者の死亡、けがによる損害)について、センターが判断を下した場合、保険会社はこれに対し不服申立てをすることができないことになっています。
これに対し、裁判の場合は、双方の当事者が不服申立てをすることができます。
このため、裁判の場合、被害者にとって有利な判決がでても、相手方が不服申立てをすることにより、解決までの時間がかかってしまうのに対し、センターの手続きでは、そのような事態を防ぐことができます。
3 本件の争点と、これに対する裁判とセンターでの対応の違い
⑴ 本件で争点になったのは、休業期間がけがの内容に比べ長すぎないかという点です。
⑵ 被害者は、相手方保険会社が休業による損害の支払を拒んでいたため、自身の健康保険より傷病手当(休業による損害の一部を健保が被害者に支払う制度)を受け取っていました。
このような場合、健保は、被害者と同様に加害者に対し、健保が支払った分の賠償を相手方に請求することができます。
つまり、本件では、休業損害の問題について、被害者、加害者のほかに健保も関与する事案でした。
⑶ このような場合、裁判であれば、問題を一括して解決するため、被害者が加害者のみを訴えた場合でも、健保も裁判の当事者となるよう促す制度(訴訟告知)があります。
裁判の当事者が増えればその分、審理の期間も長引くのが通常です。
しかし、センターでの手続きでは訴訟告知の制度はなく、あくまで被害者と加害者のみが参加する制度であったため、審理の対象が増えることにより審理期間が長期化する危険を避けることができました。
4 センターの審査制度と、本件での結末
⑴ センターでは、いきなり判断を示すのではなく、まず話し合いによる手続き(あっせん)を行い、合意ができなかった場合に、審査(裁判所が判断し結論を示すのと同じように、双方から意見を聞いてセンターとしての判断を示す手続き)を行います。
そして、審査の結果に対しては、加害者側(保険会社側)は、不服を申し立てることができません。
⑵ 今回の件でも、審査に写る前に、センターよりあっせん案が示されました。
この案は、休業損害について、被害者側の請求どおりとする一方、慰謝料について、判決となった場合と比べ、1割程度減額した案でした。
⑶ 被害者側は、上記の案を受諾しました。
すると、加害者側も受諾したため、審査に移ることなく、本件は無事解決しました。
推測ではありますが、おそらく、保険会社側は、あっせん案を拒否して審査に移った場合、休業損害はあっせん案のとおりとなる可能性が高いことに加え、一部減額されていた慰謝料が増額されることで、保険会社側により不利な結果となることを考慮して、あっせん案を受諾したのでは、と考えています。
5 おわりに
紛争の解決方法は、裁判だけではありません。
他の方法・手続きを選択することで、より有利に解決できる場合がありますので、専門家である弁護士にご相談ください。
逸失利益について
1 逸失利益とは
事故によるけがのうち、自動車賠償責任保険により後遺障害が認定されると、これに基づき、けがに対する慰謝料とは別に、後遺障害が残ったことを理由とする慰謝料を請求することができます。
また、後遺障害により労働能力が減少(喪失)したことを原因とする収入の減少による損害に対する賠償を請求することができます。
収入の減少による損害を、逸失利益といいます。
2 被害者が労働に従事していたこと
逸失利益が、労働能力の喪失(減少)による収入の減少を理由とするものであることから、逸失利益に対する賠償を請求するためには、被害者が労働に従事していたことが必要となります。
被害者の労働の中には、お勤め、自営業のほかに、主婦(主夫)としての稼働も含まれます。
しかし、事故以外の理由により稼働しておらず、事故前後を通じて稼働が予定されていない場合、例えば無職の高齢者については、事故前後を通じて労働による収入を得ておらず、労働能力による収入の減少がないことから、逸失利益を請求することはできないとされています。
ただし、未成年者または若年者については、将来、労働に従事する可能性があることから、逸失利益についての賠償を認めることとされています。
また、これ以外の、事故当時無職であった者でも、事故がなければ就労することが予定されていた者については、逸失利益を請求することができます。
3 逸失利益の算定方法について
後遺障害等級それぞれに、所定の労働能力喪失率が定められています。
例えば、頸椎捻挫・腰椎捻挫などの傷害を負い、治療を継続したにもかかわらず痛みが残った場合、後遺障害等級14級となり、労働能力喪失率は5%と定められています。
逸失利益は、事故がなければ得られたであろう被害者の年収に、労働能力喪失率と労働能力喪失期間(原則として、事故後の症状固定日(治療を続けても症状の改善が見込まれないとされた日)から労働可能な年齢の上限とされる67歳まで。)を乗じて算定されます。
ただし、労働能力喪失期間について、期間をそのまま乗じるのではなく、将来の分を一括して前取りすることに対し、期間に応じた利息分の利益を除外するための係数であるライプニッツ係数を乗じることとされています。(例:期間5年の場合、5を乗じるのではなく、期間5年に対応したライプニッツ係数である4.5797を乗じる。)
また、痛みを理由とする後遺障害の場合、これが将来的に消失したり、痛みに慣れることにより労働能力が回復することがあるとの考えに基づき、労働能力の喪失期間を5年程度に限ることが一般的です。
4 後遺障害があっても逸失利益が認められない場合
逸失利益が労働能力の喪失・減少とこれによる収入減少を理由とするものであるため、後遺障害があっても逸失利益が認められない場合があります。
代表的なものが、歯牙の欠損や外貌の醜状などです。
ただし、外貌の醜状については、逸失利益を認めない代わりに、慰謝料を一定程度増額して解決することもあります。
5 おわりに
逸失利益については、この算定に当たり、様々な事実を考慮する必要があることから、専門家である弁護士にご相談することをお勧めします。
交通事故紛争処理センターのご紹介
1 交通事故と裁判
交通事故を含め、法律上の争いがある場合、いきなり裁判になることはなく、まずは話し合いを進め、合意に達することができれば、裁判をせずにすみます。
交通事故を原因とする損害賠償事件の多くは、裁判ではなく話し合いによる解決(示談)にて終了しています。
話し合いができない場合、裁判の手続きを検討することになるわけですが、裁判をした場合、費用や時間を要することが多くあります。
また、裁判の場合、敗訴したほうは、さらに上級の裁判所に審理を求めることができるため(例:地方裁判所で敗訴した場合、敗訴した側は高等裁判所での審理を求めることができる。)、争う期間が長引く可能性があります。
2 交通事故紛争処理センターについて
交通事故紛争処理センターは、事故の被害者と、事故の相手方が加入する保険会社との紛争を解決することを主な目的として設けられた紛争処理期間です。
センターでの審理の対象となる事故は、原則として、事故の相手方が、所定の保険会社(日本の損保会社)の契約者である事故に限られています。
センターでの手続きと、裁判所での手続きを比較した場合、次のような特徴があります。
⑴ 裁判の場合、請求額に応じて所定の手数料を印紙で納める必要がありますが、センターの場合、手数料を納める必要はありません(無料です)。
⑵ 裁判の場合、紛争解決までに、裁判所への出頭を求められることが多いのに対し、センターの場合、各地にあるセンターごとに運用が異なる面はあるものの、センターへの出頭をしなくても、電話でのやりとりとその後の合意により、紛争が解決することがあります。
3 相手方が契約する保険会社は、センターの判断を尊重することとされていること
裁判の場合、先ほどお伝えしたとおり、判決に不服のある当事者は、上級の裁判所に審理を求めることができ、これにより、結論が確定するまで時間がかかってしまいます。
これに対し、センターの場合、相手方(相手方が加入する保険会社)は、センターの判断を尊重することとされ、これに対する不服申立てはできないことになっています。
センターの手続きでは、最初は話し合いによる解決であるあっせんを行い、これによる合意ができない場合、審査といって裁判と似た手続きに移るのですが、審査で示された判断に対し、相手方及び相手方が加入する保険会社は不服を申し立てることができません。
このため、審査の結果が被害者にとって受け入れ可能な内容であれば、裁判と異なり、上級機関の判断を待つことなく、紛争が解決することになります。
裁判で最初の判決が出た後、上級の裁判所で判決が出るまで、早くても数か月から半年はかかります。
上記の時間がかからずに、紛争が解決することは、被害者にとって大きな利点といえます。
ただし、大きな争点があり、裁判での慎重な判断を求めるのが相当とセンターが判断した事例については、センターの判断により、センターでの手続きが終了することがあることに注意する必要があります。
4 おわりに
センターでの手続きは、事故の相手方が任意保険に加入していない場合は、双方がセンターでの手続きをすることに合意した場合を除き、利用できませんが、事故の相手方が任意保険に加入している場合は、裁判とセンターでの手続きを比較して、有利な方を選択することができます。
ただし、選択するに当たっては、様々な事項を検討する必要がありますので、専門家である弁護士にご相談することをお勧めします。
人身事故届け出をすべき場合
1 人身事故と物件事故(物損事故)の違い
事故が発生し、警察にその旨を通報しても、直ちに人身事故となるわけではなく、負傷についての診断書を提出する必要があります。
提出しない場合は、物件事故(物損事故)のままです。
物損は故意に破損した場合を除き刑罰の対象とならないため、物件事故は刑罰ひいては警察の捜査対象外となります。
2 人身事故の届け出をした場合
賠償義務の有無及び範囲は、人損事故・物件事故に関わりなく同一です。
しかし、事故の状況や、これに伴う過失の有無・割合が争いとなった場合、警察の捜査により得られた資料が、上記争いを解決するのに大きな役割を果たすことがあります。
事故の状況について、物件事故のままですと、事故の状況について簡易な図面の作成にとどまり、これのみでは、過失の有無及び割合を検討するのに不十分な内容となってしまいます。
これに対し、人身事故の届け出がされた場合、刑罰を科すべきかどうかの判断のために、警察は捜査を尽くす必要があることから、実況見分調書といって、事故状況について詳細な図面が作成されることになり、過失の有無及び割合を検討することができるようになります。
3 警察の捜査により、監視カメラの画像取得がなされる可能性があること
昨今、屋外の監視カメラが増えていますが、この画像を被害者が取得することは容易ではありません。
プライバシー保護を理由に、画像の提供を断られることのほうが多いのが現状です。
しかし、警察の捜査に対しては、画像の開示に応じているのが一般的であり、先ほどお伝えした図面の作成に加え、画像の確認においても、人身事故の届け出が功を奏することがあります。
一例として、相手車が信号無視をしたのかが争われた事件において、双方の供述だけでは不明であったのに対し、監視カメラの画像を警察が取得し、確認したことで、相手車の赤信号無視が判明し、争いがなくなった事例がありました。
4 まとめ
人身事故の届け出をすることにより、届け出をしない場合と比べ、多くの情報を得ることができます。
追突事故のように、被害者に過失がないことが明らかな事故については、人身事故の届け出は必ずしも必要ではありませんが、過失の有無及び割合が問題となる、交差点での事故や信号の表示が問題となる事故などについては、人身事故の届け出をすべきです。
詳しくは、弁護士にご相談ください。