自賠責保険からの支払額が裁判での支払額を上回る場合について
1 はじめに
自動車賠償責任保険(自賠責保険)から事故の被害者に支払われる保険金と、裁判で被害者に支払われる賠償金は、いずれも「被害に対する賠償金」となります。
しかし、その算定方法は、大きく異なっており、この結果、両者の金額が大きく異なることがあります。
今回は、その一例をご紹介します。
2 損害の算定方法について、裁判と自賠責保険が異なる点について
治療費や通院交通費など、実際に要した費用の金額を支払うとすることにつき、違いはありませんが、以下のような違いがあります。
⑴ 過失相殺について、裁判では、少しでも被害者に過失があればその程度に応じて賠償額の減額(過失相殺)がされるのに対し、自賠責保険では、被害者の過失割合が7割未満の場合は過失相殺されない。
⑵ 慰謝料の算定について、自賠責保険は通院日数を基準とするのに対し、裁判は通院期間に応じて算定する。
⑶ 通院日における主婦(主夫)の休業損害について、裁判では通院に要した時間(自宅を出て、受診し、自宅に帰るまでの時間)を基準に算定することが多いのに対し、自賠責保険では、時間の長短にかかわらず、通院1日当たり6100円で算定する。
3 自賠責保険における保険金上限額による制限
自賠責保険における上記の算定基準によれば、通院回数が多い人ほど、保険金額を多くもらうことができそうです。
しかし、実際には、自賠責の保険の上限(けがに対する支払)は、120万円と低い金額になっています。
そして、120万円は、治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料などを全て対象とする金額です。
このため、通院回数を増やしたとしても、治療費などの他の損害に自賠責保険金が支払われる結果、自賠責保険における基準の慰謝料額よりも、実際の支払額のほうが少ないということがあります。
例えば、治療費が80万円、通院交通費が10万円、慰謝料が50万円で、治療費と通院交通費の合計90万円が先に自賠責保険から支払われていた場合、慰謝料として支払われるのは、120万円-90万円=30万円となり、50万円を下回ります。
4 上限額が120万円より多くなる場合
A車に同乗していた被害者(被害者は、車両所有者・使用者ではないものとします。)が、交差点でB車との衝突事故に遭い、かつ、この事故が双方の運転手の過失により生じたものとされた場合、被害者は、A車の自賠責保険、B車の自賠責保険それぞれに請求することができます。(自賠責保険は、各車両ごとに契約することになっています。)
この場合、自賠責保険の上限は、120万円×2台=240万円となります。
先ほどの治療費80万円、通院交通費10万円、慰謝料50万円の事例では、これらの合計が140万円であり、240万円を下回るので、被害者は、慰謝料50万円全部を支払ってもらえることになります。
5 裁判で支払われる金額よりも自賠責保険から支払われる金額のほうが多くなった事例
この事例では、自賠責保険での1日6100円での休業損害の支払対象となる休業日数(通院日数)が117日、1日当たり4300円での慰謝料の支払い対象となる治療期間の日数が189日と、他の事例に比べ、対象となる日数が多くなっていました。
その結果、裁判の基準による損害合計額が約199万円だったのに対し、自賠責基準での損害額は約226万円となり、自賠責基準での損害額が、裁判基準での損害額を上回っていました。
また、この事故が交差点での事故であり2台の車の自賠責保険に請求することができる事例でした。
このため、自賠責保険の上限が120万円×2=240万円であり、自賠責基準での損害額226万円を上回っていたため、被害者は、自賠責保険より226万円満額を支払ってもらうことができました。
また、被害者の過失割合が大きい事例では、「過失割合が7割未満であれば過失相殺はしない」との自賠責基準により、自賠責保険からの支払額のほうが、裁判での支払よりも大きくなることがあります。
4 おわりに
交通事故の事案では、保険をうまく活用することで、裁判よりも有利な結果を得ることができる場合があります。
専門家である弁護士にご相談ください。



