被害に遭った車両が経済的全損とされた場合の賠償請求について
1 はじめに
事故で車両が損傷する被害を受けた場合、これに対する賠償については、修理費と、事故当時の車両価格を比較して、どちらか安い方を賠償すれば足りるとされています。
上記の考えを示した最高裁の判例もあります。
修理費と車両価格のどちらか安い方を賠償すれば足りるとされる理由ですが、例えば、修理費が100万円、車両の値段が50万円とされた場合、100万円の修理費を支出しなくても、同じ車両を50万円で調達すれば、事故前の状況に戻るとの考えによるものです。
また、上記のように、車両価格が修理費を下回る場合、この状態を「経済的全損」といいます。
2 経済的全損とされた場合の買替費用について
車両を買い替える場合、車両本体に対する費用(支出)のほかに、新たに購入した車両の登録費用など、車両本体とは別の費用が発生します。
経済的全損とされた場合、車両を修理するのではなく、買い替えることが前提になります。
このため、経済的全損とされた場合、車両本体の価格の費用のほかに、車両の登録手続費用など、買い替えに伴い発生する費用も賠償の対象となります。
3 車両価格の調べ方について
一昔前までは、レッドブックと呼ばれる、中古車価格をまとめた本に記載された車両の価格を賠償額の基準としていました。
しかし、昨今は、グーネット、カーセンサーなどの中古車のサイトが複数あり、車両価格を容易に調べることができます。
具体的には、車種、初度登録年、走行距離、車両のグレードを入力すると、同種の車両が表示されます。
サイトでは、本体価格と、本体価格と諸費用を含めた購入価格の2つが表示されますが、賠償額の算定に当たっては、本体価格(税込)が基準となり、この平均値を賠償額としています。
相手方から示された車両価格が低すぎたり、正しいか疑問に思ったときは、中古車のサイトにて確認することをお勧めします。
4 買替費用の賠償請求について
買い替える車両を注文し、その注文書・見積書に記載された登録費用・登録申請手数料などの賠償を請求することになります。
事故に遭った車両に、コーティングが施されていたり、カーナビが設置されていたのであれば、買い替えにより購入した車両に対するコーティング、カーナビの移設を求めることもできます。
ただし、被害者が加害者に請求できるのは、あくまで事故に遭ったのと同種の車両を購入することを前提とした費用です。
このため、被害に遭った車両が中古車であるのに、新車購入の費用を請求することはできません。
被害に遭った車両が軽自動車であれば、軽自動車購入の費用が基準となるため、これよりも高額となる、普通自動車購入のための費用を請求することも許されません。
5 修理・買替の選択について
これまで使用していた車両に愛着を感じているなどして、経済的全損とされた場合でも、被害に遭った車両を修理して、使用を続けたいと考える方も中にはいらっしゃいます。
このような場合、「経済的全損でも修理しても良いか」と尋ねられることがあります。
また、「修理可能だが、事故に遭った車両には乗りたくないので、買い替えたい。」という方もおります。
経済的全損とされた場合、逆に修理にて賠償することになった場合、被害者は、修理・か買替かの選択についても、制約を受けてしまうのでしょうか。
上記に対する答えですが、修理と買替のいずれによるかは、被害者において、自由に選択できます。
修理とするか、買替とするかの問題は、事故の相手方からの賠償額を決めるための基準にすぎません。
差額は被害者の負担となりますが、経済的全損とされた場合でも、被害者が修理することを選択し、修理することができます。
6 車両保険と対物超過特約について
車両保険の契約内容にもよりますが、買替を前提とした場合、車両保険から支払を受けたほうが、相手方から賠償を受けるよりも有利な結果を得ることができる場合があります。
車両保険に加入している場合は、相手方からの賠償額と、車両保険からの保険金について、必ず比較して、有利な方を選択するようにしてください。
また、相手方の保険に「対物超過特約」が付いている場合は、「車両価格に50万円を足した金額まで」といった制限はありますが、経済的全損の場合でも、修理費相当額の賠償を受けることができる特約もあります。
これを対物超過特約といいます。(一部の保険会社(損害保険ジャパン、SOMPOダイレクト)では、特約の名称を「対物全損時修理差額費用特約」としています。)
ただし、対物超過特約が適用されるためには、実際に修理することが必要であり、修理をしないで修理費のみ請求することはできません。
7 おわりに
事故に遭った車両に対する賠償を巡っては、様々な問題が発生することがあります。
専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。