判例について

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1 はじめに
 判例(裁判例)は、過去に出された裁判所の判断(判決が典型例ですが、これ以外の「決定」「審判(家庭裁判所での判断)」と呼ばれるものもあります。)ですが、これがどのような役割を果たしているが、一般の方はご存じないのではないかと思います。
 判例の役割について、ご説明させていただきます。

 

2 判例と裁判例の違い
 過去に出された裁判所の判断について、一般的には「判例」ということが多いですが、時に「裁判例」として、判例と区別する場合があります。
 区別される場合、判例は最高裁での判断であり、裁判例は、最高裁以外の裁判所(高裁、地裁など)による判断をいいます。
 このような区別がされるのは、次に説明するとおり、判例と裁判例では、その重要性や役割が、全く異なるためです。

 

3 判例と裁判例の違い
 ⑴ 判例は最高裁の判断+実務の指針
 判例は、最高裁の判断です。
 裁判は、地裁、高裁、最高裁と進んでいき、最高裁の判断が最終的な判断となりますが、その過程で、同じ法律上の問題について、ある裁判所ではAとの答えであったのに対し、別の裁判所ではBというように、裁判所ごとに判断が分かれた場合、最高裁は、A,Bのいずれか、あるいは新たにCと判断(答え)を出すことで、その後は、同種の問題が生じた場合、先の最高裁の判断が、その後の問題についても適用されることになります。
 つまり、いったん出された最高裁の判断は、その後も維持される(ただし、例外的に変更されることもあります。)ことで、裁判所全体の判断の基準となります。
 仮に、過去の判例(最高裁の判断)と異なる判断を、他の裁判所がしたとしても、その判断は、判例に反することを理由に訂正されますし、異なる判断をした裁判官については、判例を見落としたと批判されることにもなります。
 判例は、裁判所全体の指針としての役割をもっています。

 

 ⑵ 裁判例は、あくまで過去の例
  ア これに対し、裁判例は、あくまで、ある裁判所がそのような判断をしたとの過去の事実にすぎず、これが当然に、その後の実務の指針となるものではありません。
    これは、先ほどの例のように、同じ問題でもAとBといったように、裁判所の判断が分かれることがあることからも明らかです。
    同じ問題について、最高裁以外の裁判所の判断が分かれている間は、たとえ自己の見解と同じ裁判例があったとしても、これと同じ判断を最高裁が行い、実務の指針となるかについては、まだ確定していません。
    分かれた判断について、最高裁が最終的な判断をすることにより、初めて、その後の実務の指針となります。


  イ それでは、裁判例があくまで個別の例に過ぎず、全く役に立たないかというと、そうではありません。
    最高裁の判断が未了であり、複数ある結論のいずれかを取るべきか考える際に、裁判例に記載された「判断に対する理由」を比較、検討することで、あるべき結論が見えてくる場合があります。
    裁判例には、解決の糸口を示す役割があります。
    実際、最高裁の判断も、それまでに出された裁判例や、学説などの文献を比較検討した上で、行われているものです。
    また、交通事故などにおける慰謝料や、量刑(ある犯罪に対して懲役何年とすべきかを検討するような場合)を決める際、似たような事例についての、他の裁判例を比較し、慰謝料額や量刑がどのようになっているかを検討することで、今起きている裁判の結論を予想したり、同じ事例なのに裁判所ごとに結論が大きく異なるという、不公平な事態を避けることができます。
   
4 結論だけではなく理由も大事
 上記イのとおり、裁判例を比較するためには、結論の前提となった理由を理解することが必要になります。
 理由がきちんとしている(結論に至る内容について、一貫している)と、最高裁も同様の結論・理由とする可能性が高くなります。

 

5 終わりに
 時々、ご自身の結論と同じ裁判例(最高裁以外の裁判所の判断)を見つけて、それでよしとしている方がいらっしゃいますが、それではだめなことについて、おわかりいただけたかと思います。
 判例・裁判例を検討したり理解するのは、一般の方にはなかなか難しいと思いますので、判例の検討などが必要な際は、専門家である弁護士にご相談ください。

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